3/23/2023, 4:14:28 PM
特別な存在に食べさせてあげる、甘くてクリーミーな素晴らしいキャンディ――そんなコマーシャルがあったことを思い出しながら、俺は、ただただ甘ったるいだけの、キャンディと呼ぶのも烏滸がましい砂糖玉を噛み砕いた。
夜の帳に身を隠し、廃ビルの屋上で狙撃銃を構える。スコープ越しに見えた組幹部に喰らわせるのはもちろん鉛玉。彼は依頼主にとって特別邪魔な存在であり、俺にとってはただの的だからだ。
3/20/2023, 5:00:20 AM
電車が遅延していてどうなることかと思ったが、なんとか開演時間には間に合った。
60年代の洋楽の流れる会場。やや硬い背もたれに体重を預け、私は大きく息を吐いた。今日は始まったら立つだろうから問題ないが、この会場でミュージカルでも見た日には、帰る頃には腰と背中が悲鳴を上げているだろう。そんなことを考えながら、スマートフォンの電源を切ってカバンにしまう。
客席を埋め尽くす人々の表情は皆明るく、ライブが始まるのを今か今かと待っている。今回のツアーのロゴが印字されたTシャツを早速着ている人も多い。今回は生憎と後ろから数えた方が早い座席を引いてしまったが、ステージからは遠い分、自分以外のファン達との一体感を楽しめそうだ。
BGMがフェード・アウトする。客席の照明が暗くなり、一瞬遅れて、ステージが白い光で溢れる。
私たちは誰からともなく立ち上がり、いつもの入場音楽とたもにステージに現れたロック・スターを、割れんばかりの拍手と歓声で出迎えた。
入場SEが終わる。
掻き鳴らされたエレキ・ギターの轟音が、私の血を一瞬で煮えたぎらせた。