旅人はいきなり強く吹いた風に対応が遅れ帽子を飛ばされてしまった。
頭が寒い。
しばらく吹き続けた風が弱くなってくると雲が流され日が照ってくる。
旅人は帽子がどこかにないか探して見当たらない様子で参ったなと肩を落とす。
帽子がないと頭を防げない。
頭皮が剥き出しのその頭は照りつける日に輝き、じりじりと熱くなっていく。
旅人はたまらずタオルを帽子の代わりに被るのだった。
(輝き)
北風と太陽のオマージュ、旅人はスキンヘッドだったようでテッカテカです。
待ってくれ!!それを齧ってはいけない!!
手にしたリンゴを口に運ぶ姿が見えるが、声は届かず、今から走っても遅いだろう。
頼む、時間よ止まってくれ!!ほんの少しでいいんだ。
できる限りの全力で走るが無情にもリンゴは齧られ、その人は倒れてしまった。
遅かった。…時間は止まらなかった。
せめてその姿を保てるように時間よ止まってくれ。
(時間よ止まれ)
白雪姫のオマージュ、近くに居た王子様間に合わず。
どこからともなく「助けて助けて」と声が聞こえる。
辺りを見回すが助けを求めているような人物は見当たらない。
「上だよ上」といっそう大きな声が聞こえ、上を見上げる。
木の枝にぶら下がるようにしがみついた猫が居た。
長靴が片方脱げかけているのを見るに、だいぶ焦っているようだ。
手を伸ばして猫を捕獲し地上に下ろす。
「いやぁ助かった。君の声がしたから木から降りようとして滑ったんだ」
そう言いながら長靴を履き直す猫。
何事もなくて良かったよと2人で歩き出す。
(君の声がする)
長靴を履いた猫のオマージュ、木から降りれなくなるのは猫共通点なようで。
「本日バレンタインでーす!購入特典でチョコレート付いてきまーす!」
そう声を上げると続々とお客様が集まってきた。
飛ぶようにマッチが売れチョコレートも減っていく。
「ありがとう!ありがとうございます!!」
今日の売り上げは最高額に達するかもしれない。
「特典チョコレート残り8つでーす!早い者勝ちでーす!!」
チョコレートの在庫が終わった途端お客様はちりじりに去っていった。
「お買い上げありがとうございました」
そう言って今日は店じまいだ。
(ありがとう)
マッチ売りの少女のオマージュ、チョコレート効果で売れたようす。
『どうも、先日正体バレて逃げた鶴です。』
そんな文章から始まる手紙が一通届いた。
続きはこう書いてある。
『助けていただいた時からなのですが、その後訪ねて行った時もそうだったので伝えておこうと思いまして手紙を書いております。』
ふむふむ、何か大事な事だろうか?
『その、、、ズボンのチャックが半分ほど開きっぱなしになっておりまして、今一度ご確認をと伝えておきます。』
チャック、、、あ!!開いてる。
わざわざ手紙を寄越す位なのだから本当にずっと開きっぱなしだったのだろう。
「その時に言ってくれよぉ」
そうつぶやきながらチャックをしっかり閉めるのでした。
(そっと伝えたい)
鶴の恩返しのオマージュ、逃げた後も気になるチャック。みんなは大丈夫かな?