急いで大人を呼んで来なきゃ!
誰か1人でいい、誰でもいいから近くに居てくれ!
そう願いながら僕は走った。
だけど昼間のこの時間、大人は仕事に出ていてなかなか誰にも会わない。
急がなきゃ急がなきゃ。
走り疲れて息を整えていると釣竿を持った人が向こうから歩いてくるのが見えた。
急いで駆け寄る。
釣人は少し驚いた様子だったが小さな勇気を振り絞って伝える。
「向こうの砂浜でいじめっ子達が亀を!!」
そこまで言ったところで釣人は察したようだ。
「教えてくれてありがとう。助けに行こう」
釣人は砂浜に走っていった。
僕はその場で座り込んで震える手を落ち着かせるように深呼吸した。
(小さな勇気)
浦島太郎のオマージュ、亀イジメてた事を伝えに走った子の勇気。
今日は色々忙しい日だった。
朝から晩まで町に物を売りに行っていたのだが、なかなか商品は売れず、もう1つ向こうの町まで足を延ばして売り歩いて来た。
更にその道中に罠に掛かったツルを助け、浜に打ち上げられた海亀を助け、川を流れていた桃を拾い上げ、光る竹を切り、御札を持って逃げているという子坊主を助け、売れ残った笠を地蔵に被せ、蟹と争っているという猿を捕まえ、泥舟に乗せられたという狸を助け、ようやく家に辿り着きこれから夕ご飯を作らなければならない。
本当に色々忙しい1日だった。
夕ご飯が出来ようかという時、玄関戸が激しく鳴らされた。何事か?と戸を開ける。
思わず「わぁ!」と声が出てしまった。
色々な来訪者が外に並んでいる。
助けたお礼や、品を各々に置いてその団体は帰って行った。
姿が見えなくなるまでその場でただただ立ちすくみ、「わぁ…」と情けない声しか出なかった。
(わぁ!)
色んな物語の導入伏線回収しすぎた者の物語。
じゅげむじゅげむごこうのすりきれかいじゃりすいぎょのすいぎょのうんぎきょっ!!
噛んだ。
じゅげむじゅげむごこうのすりきれかいじゃりすいぎょのすいぎょのうんぎょのすいぐくっ!!
また噛んだ。
どうしてもじゅげむが言いきれない。
じゅげむじゅげむごきょっ!!
もう噛んだ。
言い終わらない。終わらない。
(終わらない物語)
寿限無のオマージュ、息継ぎなしで言いきれない程度の肺活量。
頭痛が酷く痛み、ただやらなくてはいけない事が山積みで休む事が出来ない。
こっちの川に桃を流し、あっちの川にお椀を流し、向こうの竹やぶに光る竹を生やし…
間違えないように順番に済ましていく。
疲れが頭痛を更に強くする。
弟子が心配そうにやってきた。
頭痛を隠し大丈夫問題無いと、心配させまいとやさしい嘘をつく。
だが弟子はそんな事はお見通しだと、半分がやさしさで出来た鎮痛剤を差し出した。
(やさしい嘘)
物語の舞台を整える誰かの話、半分やさしい鎮痛剤は1回2錠です。
寝れない。
音が気になって仕方ない。
隣の部屋から響く機織りの音と、ブチブチと何かを引き抜くような音と、それに伴う呻き声。
寝れない。
瞳をとじて、瞼をぎゅっと瞑って寝よう寝ようと思えば思うほど眠気は遠のいていく。
耳を塞いでも頭の中で音が止まらない。
ギィバッタンギィバッタンと鳴る度にその呻き声が大きくなっていく。
寝れないまま朝を迎えた。
(瞳をとじて)
鶴の恩返しのオマージュ、羽毛引き抜きながら織ってるから呻くよねそりゃ。