霜月ミヲ

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11/7/2022, 11:18:09 AM

『あなたとわたし』

時々連絡を取っていた高校時代の友人―Eが他界したとの連絡があったので、五年ぶりに地元へ帰ることにした。

俺とは比べ物にならないほどの『優等生』だったE。成績は常に学年一番。高校卒業後に県内トップクラスの大学へと進学して、医師になるための勉強を続けていた。
「沢山の人々を救う医師になる」
それがEの夢だった。夢は志半ばで絶たれた。

3ヶ月前に電話で少し話したのが最後だった。
Eは高校時代から何一つ変わらない無邪気な声で俺に近況を報告してきた。
大学が楽しいこと。新たな友人ができたこと。

幸せに満ちていた彼の生活。

Eが突然いなくなった。今でも信じられない。Eがいなくなってから、俺の生活は空虚だ。

神様とは不平等なもの。どうせなら俺から生命を奪えばいいのに。そうしたら、Eもいなくなることはなかったのではないか。この世は、少し意地悪だ。


仄暗く澱んだ空を背景に葬儀は行われた。
盛大な葬儀が終了に差し掛かった頃、Eの親御さんが俺のところに挨拶に来た。

「ユウマくん、あの子と仲良くしてくれてありがとう。きっとあの子も喜んでくれていると思うわ。」

不意に感謝を述べられて、どう返せばいいのかとたじろいでしまった。
なんだか急に悲しさが込み上げてきて、とっさに、

「こちらこそありがとうございます。」
と、あいつと一緒に高校時代を過ごせたことに対する感謝を伝えることしかできなかった。

挨拶を終え、実家へ帰ろうと歩を進めたとき、
「ユウマくん、息子の分まで精一杯生きてくれ。それが、志半ばで逝ってしまった息子の本当の願いだと私は思っている。」

何処からか野太い声が葬儀場に響いた。Eの父親の声だ。
Eの、願い。
医師になって、人々を救う夢を絶たれたあいつの願い。その言葉が心に沁みた。

「あいつの、Eの分まで生きます。すみません。今日はありがとうございました。」

時々つっかかりながら、今すぐ泣きたいのを堪えてようやく振り絞った言葉だった。

「ああ、その言葉を聞いて、息子もさぞかし喜んでいると思う…」

段々と目の前がぼやけていく。目の前が橙色になっていく。
近くでは、あいつの親御さんが遺影の前で声を上げて泣き崩れている。

おい、E。お前は世界一の医師になって人々を救うんじゃなかったのか?
どうして逝ってしまうんだよ、俺や親御さんを置いて。

そんな下界の人々の声も聞かぬまま、Eは天に登っていった。

(長い…。ここまで付き合ってくださった全ての人々に感謝します。ありがとうございました。)

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初作品です。『あなたとわたし』というより『君と僕』みたいな雰囲気になってしまった…。