小2の頃には既に学校に遅刻ギリセーフで駆け込むことが
日課になっていた私。ウチから小学校まで7分の距離を
いかに縮めるかに身命を賭していた。
と言うわけで玄関でて、いきなり猛ダッシュなのだが
通学路をショートカットして走り抜ける団地群の
北側を通ると和室の窓からいつも
全力疾走するこちらを見ている人がいた。
こちとら必死で走ってるし、既に近眼だった私には
ボンヤリとしか見えないのだが、朝必ずいた。
まあ帰りはちゃんと通学路を守って帰ってたので通らんから
昼も夜も窓から覗いているかは知らんのだが。
それがある日パッタリいなくなった。
数日気にして見てみたり、この私が朝5分早く出てその窓の下で
待ってみたりしたのだが、和室の窓は空っぽだった。
だいぶ後から聞いた話だが、そのウチには夫婦と子供二人と
おばあちゃんが住んでたそうだが、旦那さんが亡くなってすぐ
おばあちゃんだけが引っ越したそうだ。
そのおばあちゃん…だったのかな?
遅刻ギリで走るアホな小学生を窓越しに見て
笑ってくれていたのならいいのだけど。
(窓越しに見えるのは)
小指に結んであった赤い糸。
手繰って手繰って手繰ったら
糸の端が現れた。
最初からいなかったのか、それとも
切ってどこかへ行ったのか。
この糸から去っていった人がもしもいたなら
君よ、君と私、結ばれずとも世界のどこかで各々が
快く生を全う出来ていたら幸いだ。
(赤い糸)
入道雲、じっくり眺めると、妙に立体感があるな。
子供の頃デッカイプールの施設に連れてってもらった時
5メートルの飛び込み台に頑張ってよじ登り
手を目一杯バタつかせて足から飛び込んだ。
子供心にひょっとしたら飛べるかもしれないと思っていたが
ま、足からドボン!と水に墜落した。
そしたら遠くから監視員が突進してきて大目玉を食った。
飛び込み台に年齢制限があったらしい。
素直に謝った私に監視員さんが怖くなかったの?と聞いてきた。
台から飛び込む時も落ちてる最中もずっと空を見ていた私は
怖いという感情が起こらなかったようだ。
あの時の空もモコモコと力強い入道雲がビッシリだったな。
入道雲を見ると、飛べるようになりたいと願ってた
恐れ知らずの子供が自分の中にいたことを思い出す。
(入道雲)
私は夏が嫌いです。なぜなら暑いから。
暑くなると、寒がりの父がクーラーを嫌がり
それでもなんとか説得してクーラーにしてもらうと
イライラしだし話しかけても怒鳴ったり無視したり
今何度だ!と何度も室温計をチェックさせられたりと
俄然ウチの中の空気が悪くなります。
その上いつの間にか29℃に温度設定を変えて
リモコンをずっと握っちゃってます。
厚着して毛布かけてクーラーをいちいち睨み付ける。
夏にクーラーで下がった室温よりはるかに寒い冬だって
そんな格好してないだろうよ。
ま、何を言っても「嫌なら出てけ」なので
家にいる時は自分なりの熱中症対策をしてます。
母か私が熱中症で死ねば少しは考えを変えるかな?
変えないだろうな。
男は台所に入らないと言って、夕飯の支度が整うまで
寒い寒いと座椅子に座ってテレビを見ている父。
ああ、冬が待ち遠しい。
(夏)
私、新入社員です。今日で出社2日目。
まだ右も左も分からないので、とりあえず
倉庫入り口に山積みしてある段ボールを
中に入れとくようにとの指示を受けました。
大量に積んである段ボールに思わず遠い目をしたが
それでも「千里の道も一歩からや!」と自分を奮起させた。
あれ?遠い目をしたおかげで異変に気付いた。
「1ケロ?」…けろ?何だこれは。
全ての段ボール一箱一箱に太マッキーで1ケロと書いてある。
・・・これは?はっ!
そういえば昔、ケロが通貨単位の超有名なゲームがあったな。
この「ケロ」もこの会社、いやひょっとしたら
この業種では当たり前の何かの単位に違いない。
今までの常識は通用しない。ぬるま湯のような日常とは
違う世界でこれから私は生きていかねばならないのだな。
決意を新たに、倉庫前を暇そうに散歩している偉そうな人に
新入社員の特権であろう分からないことはすぐ質問を行使した。
「すいません!ここに書いてあるケロって何ですか!」
「い・っ・こ・ぐ・ち、一個口だよ。カエルじゃあるまいし」
…「ケ」が大き過ぎじゃナイデスカ?
(ここではないどこか)