買い物帰り家に向かう途中、姉から電話がかかってきた。
なんでもないそうだが姉のなんでもないは特に長い。
通りかかった誰もいない公園のベンチに腰を落ち着ける。
いい天気だな…、姉と会話を続けながら青い空を見上げた。
突然ふわりと黒い翼が目の前に舞い降りた。
ベンチから2、3メートル。近い。
いつもいるカラスより若干小ぶり、メスかな?
美しい。艶やかな濡れ羽色に目を奪われた。
しゃべりながら自分を見つめる人間を不思議に思ったのか
カラスはこちらを向いて小首をかしげた。
(くわっ!くゎ・わ・い・い~~~~~!!)
可愛い!あざと可愛い!
吸い寄せられるように立ち上がり、一歩踏み出す。
逃げない。戸惑っているようだが逃げない。
戸惑ってる感が更にあざとい!
胸の高鳴りを抑え更に一歩…
急に無言になった私に姉が何かわめいている、知らん。
だがその目の泳いだほんの一瞬に、軽やかに半回転したカラスは
あわてて青い空へ飛び去ってしまった。
あぁ、行ってしまわれた…
いやはや、久しぶりに魂まで奪われてしまったな。フフッ。
ふいに電話がかかってきた。姉から…いけね、電話切れてた。
今のペナルティ分、更に長い通話が始まった。
(胸が高鳴る)
私が成人した時に父が
社会には不条理なことがいくらでもあると教えてくれた。
いちいち心を動かさずに常に冷静を保つように。
あの頃の私は不条理にいちいち
目くじらを立てる人間だったようだ。
父よ、ご安心下され。
いまや心を動かすどころか、お題をみて
不条理の意味を検索してみるほど
呆けた人間になりましたよ。
(不条理)
懐かしい小さい頃の話。
兄が家に帰ってきたので遊んでもらおうと
待っていたが、なかなか部屋から出てこない。
そっと部屋を覗きに行ったら部屋にいない。
…?そのときは不思議に思っていたが
なんか別なことに興味がいったのか、すっかり忘れていた。
何年か経って、兄から
「どうしても泣きたくなったら押し入れ貸してやるからな」
と言われた。
そうか、あの時泣いてたのか。
確かに兄の泣いてるとこは見たことなかったな。
いまや私は荷物を詰め込んだあの押し入れに
入り込めるガタイでは無く、兄もこの家を出て久しい。
なので泣きたくなっても…まあ、我慢するか。
(泣かないよ)
昨今のスマホゲームはろくな説明がないまま
ゲームの世界に放り出されることが多い。
いきなり始まって足早に説明してくれてもさっぱりだし。
こんだけ選ぶボタンだらけでしかも、説明以外のところは
選れべないから、頭に入ってこないし。
なんか恐ろしい数字が斜め上に付いちゃってる
受け取り箱みたいなところに
スタートダッシュやらログボやらズラズラズラ…
運営からのお詫び?何したの?
運営からのプレゼント?何で?
ガチャ券とかならともかく
もらったものの使い方も分からない。
頭がパニックを起こす。未知のオンパレード、怖い…
あー、なんかこのゲームきっと私には無理そうだ、うん。
アンインストール、アンインストール…
(怖がり)
巷には星が溢れてる。
何かに評価を付けるのに分かりやすいのだろう。
ただでさえ美味しいお食事処に、更にランク付けしたり。
個人差満載であろう何かの使い心地の感想だったり。
星の数みて行く病院決めたりお宿を決めたり。
ただ闇雲に疑り深い私としては
これどうやって決まった?誰の意見がまかり通った?
と星を見るだに勘ぐってしまうのだ。
巷には疑わしい星が溢れてる。
(星が溢れる)