不完全な僕が目の前に現れた。
私に何か用?完全になる方法でも聞きたいのかな?
知らないよ、そんなもの。え、違う?
じゃ、完全じゃなくても大丈夫って言って欲しいの?
私の言葉なんか何の担保にもなりゃしないよ。え、違うの?
そうか、分かった。ま、そうかなと思ったけど。
完全から程遠い私の前なら自分のがマシって安堵出来る!
これも違うの?
ま、お座りよ。座るにちょうどいいブロック塀があるよ。
私もちょっと休みたかったのよ。ほれほれ。
まあなんだ、わざわざ「不完全」って銘打ってるってことは
自分の不完全さに思うところがあるってことだね。
完全はいいことだと思うよ。目指すのはいいことさね。
自分の為の目標にするならカッコいいことだけど
誰かの為ならオススメしないよ。やめたがいい。
誰かの期待を裏切っても、自分の為に生きるのさ。
だって自分の人生じゃん。
だいたい相手に完全を期待するやつは止め処ないよ。
完全になった瞬間から次の完全を提示してくるよ。
満足なんかしやしないからね、アイツら。
だから…、あれ?
不完全な僕はいなくなった。
ま、シラフの人間にくだを巻かれりゃね。
叔母さんが昔、海外旅行に行って買った香水を母に寄越した。
母が手首の裏に付けたのを嗅がしてくれたが
匂い云々以前に、そのキツい香りでむせてしまった。
母も余り好みではなかったようで、さてどうしようとなり
結局見た目のよさで、トイレの窓辺に飾っとくことになった。
恐るべきことに、ただそこにいるだけで匂いを放ち
芳香剤的な役割を担っているようだった。
それから半年以上経ったある日、兄夫婦が家に来た。
車で2時間以上かかる距離の為、着くなり二人とも
トイレに行った。
その後しばらくしてから私もトイレに入った。
いや、トイレの扉を開けた瞬間
「ガハッ!ゲヘッ!ゴホッ!」
兄も義姉も消臭剤と思い、大量に撒いたらしい。
トイレに飾られたのが余程不本意だったのか…
半年以上も経って、香水から恐るべき報復を受けた。
言葉はいらない、・・・ただなんだ?
言葉はいらない、・・・ただ意思疎通は欲しい…かな。
一人きりならともかく他者がいるなら
何考えてるか分からないと、かえってストレスになるかも。
会話はいいから、・・・言葉は欲しい。
あれ、結構良さげ?ストレスは減るかも。
でも、社会生活は難しいよな。
余計なおしゃべりは要らない、・・・用件をおっしゃって。
なんか小言じみてきたな。
前に条件を付ければ、どうだろう。
一人暮らしなら言葉はいらない、・・・ただ無いと社会的に不便。
これだな、うん。
社会人になりたての頃、私は真面目な社会人として
貴重な休みは真面目に休むことにしていた。
もうじきお昼だなとやっとこさ起きて、わちゃわちゃ始めた時
突然玄関のピンポンが鳴った。誰だろ?聞いてないが。
…宗教の勧誘だった。
だが、顔を見た瞬間に知ってる顔だったことに気づく。
小学校の同級生で5、6年生の時クラスが同じだった。
あきらかに相手からも動揺が伝わってきたが
社会人のマナーとして気づかない振りをした。
宗教の勧誘って、遮二無二勧めてくるもんだと思ったけれど
うわずった調子で早々に帰って行った。
勧誘に回る先って決められないのかな。
それ以来、訪問予定のないピンポンで
扉を開けることはなくなった。もう会うこともないだろう。
何年前だったか、急に降りだした雨に濡れた
笑顔のケイン・コスギを見かけた。
例のゴールデンジャケットの彼は背が低かったので
幸い折りたたみ傘を持っていた私は傘を差しかけて
しばらく雨の中を相合い傘で佇んでいた。
そのうちお店から人が出てきたので、その場から離れると
「ありがとうございました!」と後ろから声をかけられた。
振り返ると、人型看板のケイン・コスギを小脇に抱えた店員さんが
お辞儀をしてくれていた。
コマーシャルを見る度、思い出して笑っているが本当に
何年前だったっけ、結構長いことやってるな。ケイン・コスギ氏。