無人島に一つだけ持って行けるなら、何を持っていく?
ありきたりで、何度も擦られた質問。つまらないものなはずなのに、目の前の君があまりにも興味津々にこちらを覗き込んで聞いてくるから、適当な回答は免れない。
「んー、迷うな……君だったら何持ってくの?」
「毛布!」
「いや、もっと実用的な何かがあるだろ」
「だって寒いの無理なんだもん」
君は口を尖らせそう言って、窓の奥に広がる銀世界を見てうんざりしていた。
「大体な、温もりが必要なら俺でいいじゃん。俺を連れて行けばいいよ」
「うわぁ。クサいなあ……いいよいいよ、遠慮しとく。
あー、でも、私1人の島より、君がいてくれた方が楽しそうかも」
大きな瞳がぱちりと瞑られる。
君の眩しい笑みを直に食らった俺は暫く動けないでいた。
掃除も粗方終了し、彼女と別れて1人残された教室。
自分の席から窓の外を眺めていると、校門に彼女を見つけた。
先ほどから落ち着きのない様子で下駄箱と校門を行ったり来たりしていて、挙動不審になっていて面白い。そして腕をかかえて縮こまっている。積雪量の多いこの田舎町でも、今日は決して寒くないと言えないほどの気温だ。このままそこにいたら凍死待った無しだろ。
雪がどんどん激しく降ってきて、彼女の姿すら見えなくなった頃。
俺は彼女の机を漁って、ラブレターを引っ張り出した。しわひとつない封筒から便箋を取り出して内容を読む。
『伝えたいことがあります。 放課後、校門前で待ってます』
これは俺が彼女に宛てて書いたものだ。
しかし、贈り名は俺ではなく、彼女の好きな人の名前を書いた。偽装したのだ。
これなら彼女を放課後留めておくことができるし、寒い中放置することで体も動きにくくなるだろう。
……なんでこんなことをするかって、それは彼女のことが大好きだからだ。
中学の時、いじめを受けていた俺を守ってくれたのが彼女だった。その背中はさながら女神だと思った。
そこから俺が彼女を好きになるのは一瞬だった。
俺がいじめられていたことは天啓で、全部彼女と引き合わせられるためのものだった!
だから今日、こうして引き合わせられるのも、俺が手繰り寄せた運命なんだ!
にやけが止まらずに勢いだけで階段を降りる。
今頃彼女、どうしてるかな。まだ校門にいるのかな?それとももう帰路についてるのかな?どっちにしろ、体が鈍ってるはずだから君を奪うことなんて容易いんだよ。
校門を突破して一つ目の信号を渡ったところに彼女の姿が見えた。僕は笑みを堪えて、後ろからゆっくり近づいた。
無人島に一つだけ持って行けるなら、何を持っていく……か。
無論、君を連れて行くよ。君と俺以外誰もいない世界で、死ぬまで一緒にいれるんだ。命を捨ててでも君といたいに決まってる。
砂漠にあるオアシス。地獄に垂らされた蜘蛛の糸。俺にとっての君。弱いものは窮地に追い込まれた時の甘い蜜にめっぽう弱い。その窮地が苦しければ苦しいほど、逆転の光は強くさす。
だから僕は、君に執着し続けるんだ。
〈1つだけ〉