午後二時をまわると、血糖値が下がってくるのか
夢の世界に行くものがちらほらと。
教室の隅っこからはその様子がよく伺える。
ちょうど対角に座っている友人が
こっくりとしているのをボーっと眺めていると、
突然自分の名前を呼ぶ声がした。
しまった、寝てた。
伏していたノートに小さな水たまりが出来ていた。
ドアの鍵穴に鍵を刺すと同時に、
マンションの共用廊下の照明が灯った。
この時期は、夜の七時頃に灯るようになっている。
ドアノブに掛けた手がオレンジに包まれる。
帰ってきたのに、これから出掛けるような気がした。
高校入学後、最初にカラオケへ行った友人と
二年ぶりにカラオケへ行った。
友人は相変わらずの選曲だ。変わらない。
それに対し、自分の好みはこの二年で
がらりと変わっていた。
残り十分で退出の通知が来た。
あの頃歌ってた曲、歌ってみるか。
いつかこんな日が来ると心の中で思っていた景色が、
今ここにある。
イントロが流れ出す、あの日の景色を二人思い出す。
風呂を済ました後、髪を乾かし歯を磨き、
いつも通りベッドに横たわる。電気を消した後、
目覚ましを設定し忘れていることに気付き、
せっかく毛布であったまり始めた身体を
冷房ですっかりガン冷えの空間に投げ出す。
今日はこれにしよう。
目覚ましをセットするついでに、棚に置いてある
好きなアーティストのカップリング曲集を手に取る。
“願い事”そんな可愛らしい響きの言葉が浮かんだ。
僕にはまだ分からない。結局一曲目を聴き終える前に
そのまま眠ってしまった。
今日の帰り道は視界がやけにボヤけるような。
塾の帰り道、とっくに10時をまわった国道は
静寂に包まれている。
ペダルを一漕ぎ、それでも景色は変わらない。
とくにライトのまわりがやけにボヤける。
火事でもあったのかと疑うほどボヤけていた。
構わず徐々に加速していくと、
ゴーっと耳を撫でられたような気がした。
風である。