#7【夏】
子供の頃、夏が好きだった。
いや、夏が好きと言うと
語弊があるかもしれない。
日が長いのが好きだった。
理由はただ1つ。
「日が暮れるまでに帰ってきなさい」
というのが、我が家の門限ルールだったから。
滅多に外に遊びに行かない私にとって
母の言うことは絶対で
約束を破るなんて思考は1ミリもなかった。
そんな感じの子どもだったから
外で遊ぶ日はまだしも
家のなかで遊ぶ日などは
日の暮れ具合ばかり気になって
遊びどころではなかった。
少しでも空がオレンジに色づき始めると
「もう帰る!」と急いで飛び出す私を
友達はいつも笑いながら見送ってくれた。
太陽と競争しながら
自転車のペダルを必死に回す。
約束を守って玄関をあければ
母がカルピスを作って
待っていてくれるのを知っているんだ。
母の作る、ちょっぴり濃いめのカルピス。
それも夏が好きな理由にしようかな。
#6【ここではないどこか】
どこかに行きたい。
会社と家の往復。
毎日見る同じ顔ぶれ。
いつものスーパー。
さすがに飽きた。
もうやだ、飽きた。
どこかに行きたい。
どこかに行きたい。
そう言いながらも
行きたいところなんて特にない。
ここではないどこかなら
どこでもいいわけでもない。
とりあえず
今日も何となく過ぎて
あー、って言いながら
まぁいっかで終わるんだ。
#5【君と最後に会った日】
君と最後に会ったのは
暑い、暑い夏の日だった気がする。
ごめん。正直しっかりとした記憶はない。
それくらい、なんて事ない日だった。
覚えているのは
JINROのグレープフルーツジュース割りに
ラムネ味のチュッパチャプスが
マストだと言うこと。
お酒の美味しさを教えてくれたのは
間違いなく君なんだよ。
悔しいけど
君が作るカクテルの味は
何度試しても
私じゃ再現できない。
もう一度飲みたいんだけどな。
連絡の取り方もわからないから
そっちに行った時にまた作ってくれる?
まだ予定はないからさ。
気長に待っててくれたら嬉しい。
人見知りは治しておいてよね。
たまには夢に出てきてもいいよ。
#4-1【繊細な花】
触れたらほろほろと崩れそうだ。
心の中に咲いた想いは
永久凍土へ。
誰にも触れさせない。
君にも触れさせない。
#4-2【繊細な花】
繊細な花があるのならば
繊細でない花もあるのだろうか。
もしあるのならば教えて欲しい。
私はきっと咲かす事ができない。
水をあげても、あげなくても
奴らは簡単にその緑を手放す。
そんな私に
育てられるわけがない。
人間など
怖くて育てられないんだよ。
#3【1年後】
あの日のいつかは
1年後の今日。
約束はしない。
そんなのいらない。