6/23/2023, 12:18:09 PM
#2【子供の頃は】
「先生に言うよ!」
お前の口癖だったよね、と
隣の男は笑う。
あの頃は正義感が強くて
ついでに責任感も強かった。
一人っ子だった私は
何かを任されるのが嬉しかったし
お世辞を素直に受け止める純粋さもあった。
今の私は、同窓会の幹事になることさえ
鬱陶しくて、めんどくさい。
知識と経験は、時に人を堕落させる。
20年の時を経て、漸く気付くのだ。
遅い。遅すぎる。
それでも、あの頃のイメージは
彼らの中に不思議と残り
当たり前のように託される。
子供の頃の自分を
大人の今は恨んでいる。
なぜあんなに張り切ったのだ。
みんなをまとめるな。何年も苦労するぞ。
「お前が俺らを忘れても、俺らはお前を覚えてるよ」
めっちゃ怖かったし、と
男はまた笑う。
誰のせいだよ、という言葉は
冷えたモスコミュールで流し込む。
もう告げ口出来る先生はいない。
覚えていてくれるなら
多少の面倒も引き受けようじゃない。
こうやって5年に1度
お酒を飲んでくれるなら。
6/23/2023, 4:43:36 AM
#1【日常】
なんてことはない。
朝起きるのが辛いとか
仕事に行くのが面倒だとか
ごちゃごちゃ頭の中で愚痴ったって
顔を洗って一息ついたら
今日も私は当たり前のように
鏡の前でアイラインを引くのだ。
それさえうまく行けば
大抵の事はスルーできると知っているから。
上手く書けなくても大丈夫。
お気に入りのアイシャドウで誤魔化して
ちょちょいとグロスを唇にのせれば
自然と気持ちは上がってくる。
なんてことはない。
私の憂鬱なんて
少しの色で掻き消せる。