【不条理】
私の人生は、どうしようもないことが多すぎる。
勉強も運動も人並みにできない。
頑張って努力すれば報われるというのは、ただの一般的な結果論であって、私の場合は報われないばかりだ。
これが、きっと運命なのだろうと何度も思う。
でも、どうやら私は諦めが悪いらしい。
下手を上手に変えられない自分自身も、
下手が上手にならないと変われない世の中も、
私は、どちらにも言い表せない不満を持っている。
今後、もしも私の不満が解消されるようなことがあったら、それは不条理を乗り越えた時なんだろう。
【泣かないよ】
友達は、いつも泣いてばかりいた。
逆上がりに失敗した時、発表でのセリフを間違えた時、食事に苦手な枝豆が出た時……どんな時も泣いていた。
そのたびに「弱虫」「泣き虫」「へなちょこ」と呼ばれる友達を泣き止ませることが、私の役目だった。
私は友達を励まし、笑いかけて、支えた。
私も、どんな時でも泣いてしまう友達のクセは、あまり好きではなかったけど、嫌いにもなれなかった。
今でこそ、身体も心も成長した友達は泣かなくなった。
逆上がりはできるし、発表でのセリフを間違えることもないし、食事に苦手な枝豆が出ても食べられる。
「もう、泣かないよ」
友達は笑顔で、私に力強く言った。
すでに「泣き虫」と呼ばれていた頃の面影はなかった。
そんな友達に「成長したね」と笑顔で返す。
なぜだろうか、少し寂しいよ。
【星が溢れる】
夜空を見上げると、あの人のことを思い出す。
「夜空の先には、星が溢れてるんだ」
あの人は、特に仲の良いでも尊敬している人でもなく、一度しか話したことはない。
それでも、あの人の言葉が忘れられないのだった。
何を思って、そんなことを言ったのかは分からないが。
暗くて何も見えない夜空の先に存在している数多の星の輝きを……いつか、私の瞳に映したい。
そして、再びあの人に会えたら、私の瞳を見せて、
「ほら、言っただろ」と笑う顔が見れたらいいな。
【安らかな瞳】
それは、いつもつぶらな瞳で、私を見ていた。
それは、いつも飾らない瞳で、私を見ていた。
それは、いつも眩しげな瞳で、私を見ていた。
ショーケースに飾られた私の瞳にそれの姿が映る。
今日も「私を買って」と安らかな瞳の通行人に訴える。
【ずっと隣で】
自宅の本棚から、一冊のアルバムを取り出す。
重たくて、ずっしりとした手ごたえがある。
中を開くと、写真が大量に収められていた。
海でスイカ割りをしている私の写真。
六歳の頃で、スクール水着かつ目隠しをしていた。
見つめていると、なんだか気恥ずかしくなってくる。
捨てられていた犬を拾って帰ってきた父の写真。
あの怒ると怖い父が……?!と思わず私が撮ったのだ。
この犬は、父から「ゴマ」と名づけられ、今は私の家で大切に世話をしている。
ハロウィンで仮装している私と母の写真。
私は魔女で、母は白いお化けのコスプレをしている。
前日に「ただのお遊びでしょう」と言っていた母だが、私よりもノリノリでハロウィンを楽しんでいた。
たくさんの思い出に満ちた写真の数々を思い返しながら眺めていると、ある一枚に目が止まった。
手で取り出し、目線と同じ高さに掲げてみる。
それには、私の父と母、愛犬のゴマと私が写っていた。
普段は厳格な父が母と手を繋ぎ、めずらしくにこやかに笑っている。母と私もとびっきりの笑顔を浮かべており、なんとなくゴマの表情も嬉しそうに見える。
私の大切な、大切な家族の集合写真。
私が成長していくにつれて、だんだん年老いていく両親やゴマを見ていると、すごく不安な気持ちになる。
あと、どれくらい皆と一緒にいられるのだろう。
なんて、考えれば考えるほど、残された時間が短くなりつつあることを理解してしまう。
ねぇ、お願い。
まだ一緒にいられる間だけは、ずっと隣にいさせてね。