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10/24/2023, 1:37:34 PM

「行かないでよぉ」
私は泣きながら必死に彼女を引き留めようとする。無駄なことは知ってる。でも悪足掻きくらいしたい。その悪足掻きで彼女を引き止めれるのなら幸せだから。彼女を困らせるのは分かってる。でも、それでも行かないで欲しかった。
 彼女は困った顔をしながら私の頭を撫でる。優しく、優しく。落ち着かせるように。彼女の手はあたたかい。大好きな手。ずっと撫でて欲しい。
 そのあたたかな手で私を撫でながら彼女は言う。
「ごめんね、どうしても外せない用事なんだ。明日は1日一緒に居れるから、お留守番しててくれるかな?」
少し申し訳なさそうだった。彼女が申し訳なくなる事なんて何も無いのに。
「おるすばんしてたら、あした、いっしょ?」
ぐすぐすして聞き取りにくいし、しかもほとんど文章ではなく単語で言ってしまったけれど、それでも彼女は優しく受け止めてくれる。
「うん、そうだよ。だからお留守番してて?ね?」
いい子の君なら出来るよ、と付け加えて。
褒められながらお願いをされるとどうしても聞いてしまう。
しかも彼女からのお願いだ、これ以上困らせてしまう訳にはいかない。
彼女の言う「いい子」の私なら出来ると自分に言い聞かせ、
「ん、わかった、あした、ずっといっしょだよ?」
と小指を突き出す。約束でもしてもらわないと安心できない。約束してもらっても完全なる安心など出来ないが。
「うん、分かったよ。明日何して遊ぼうか。考えて待ってくれてると嬉しいな」
彼女は言いながら小指を絡めてくれる。
絡めた小指を数回上下に振って
「ゆーびきった!」
そして絡めていた小指を離す。
もう一度私の頭を撫で、
「行ってくるね」
とドアを開け彼女は出かけた。
「行ってらっしゃい」っていえなかったな。

『行かないで』