"雪明かりの夜"
突如始まった集団生活。
四六時中誰かしらと顔を合わせることに慣れなくて、時々夜中に抜け出して外を散歩していた。
建物周辺をふらふらするだけだったけど、僅かな間でも人の気配の無い場所に身を置くことで、多少なりとも心が落ち着くのを感じていた。
冬のある日、積もった雪をさくさくと踏みながら周囲をぐるりと回り、建物内に戻ろうとすると、出てきた勝手口に鍵がかかっていた。
見回りで施錠されたのか、それとも知っていた誰かの悪戯だったのかは分からないけれど。
とりあえず、まだ灯りのついている部屋の窓の下まで移動して、届かない手の代わりに石でも投げようかと振りかぶったところで。
ふと。
戻る必要あるのかなぁ、と思った。
このまま。
このまま外に座り込んでいたら朝方には冷たくなっているだろうか。
脳裏をよぎった考えに、持ち上げた手が力を失う。
ずるずると壁にもたれかかり、白く息を吐いて空を見上げる。日中止んでいた雪が、再度音もなく降り始めていた。
窓のカーテン越しに漏れる灯りを反射して、舞い降りる雪は仄かに光を纏うようで。
薄っすら感じ始めた眠気の中でぼんやりと、
綺麗だなぁ、と思った。
今になって振り返ると、随分と不適切なことをしようとしていたんだなと思う。
せめて建物から離れた場所に移動するべきだった。
朝起きて窓の外に凍死体があったら、折角の朝が台無しだもんなぁ。
まぁその後間も無く職員さんに見つかり、物凄く叱られた挙句、夜間は職員さんと同部屋に寝泊まりするようにと命じられてしまったわけだけどね。
その節はご面倒をおかけしました……。
"遠い日のぬくもり"
幸せになりなさい、と。
柔らかに頭を撫でた手のぬくもりを、今でも覚えている。
"揺れるキャンドル"
彼女がいなくなってあの小さな部屋を出てから、
一時的に施設でお世話になっていた。
クリスマスイブの日。
職員さんに連れられてミサが行われる講堂に入ると、キャンドルを渡された。
小さい子には火は危ないからと、キャンドルは職員さんと二人でひとつ。
職員さんに手を添えられながら、隣り合った人から火を移してもらい、更に隣の人へと火を繋いでいく。
ゆらゆら揺れる灯火は温かくて。
まるで小さな生き物を抱えているような感じがした。
"星になる"
それって、煉獄の炎に灼かれ続けるのとなにが違うんだろう。
目を奪う輝きの裏で零れる悲鳴を、涙を、
綺麗と笑う人々は知ろうともしないだろうね。
"遠い鐘の音"
ウェストミンスターの鐘とか?
ビッグ・ベンは有名だよね。
学校のチャイムなんかにも採用されているメロディなんだけど、実物とチャイムの音を比べると近くて遠いというか、微妙に惜しいというか。
ビッグ・ベン鋳造当時は基準周波数高めが主流だったらしいから、今聞くとちょっと不思議な音をしているよね。