【もう一歩だけ、】
俺みたいななんにも持ってない人間は
存在していても迷惑だと思った
なにかを与えられるわけでもなく
なにかを作り出せるわけでもなく
なにかを成し遂げることはおろか
なにかを届けることすらできなかった
俺みたいな頭の悪い人間は
いない方がみんな楽に過ごせると思った
喧嘩ばかりで強がりで
役に立たないくせに文句ばかり言って
俺みたいな無気力な人間は
いてもいなくても同じだと思った
俺がいなくなっても
みんなは最初だけ悲しんで
すぐに慣れてしまうだろう
いてもいなくても
なんにも変わることはないはずだ
俺がこんな考えに至るまでには
たくさんの頑張りと悩みがあって
そういうものを当たり前のようにへし折られたり
無駄だと切り捨てられたり
どう足掻いても解決できなかったりした
最初から自分に存在価値がないと思っていたわけじゃない
もう一歩だけ、もう一歩だけ
そう言い聞かせて歩いてきたけれど
報われないならいくら歩いたって同じことだ
あと一歩、あと一歩
それが永遠に続く
明るい終わりはまったく見えてこない
あるのは今以上の苦しみだけだ
もう一歩だけ、なんて言葉に
俺はもう騙されない
【見知らぬ街】
引っ越してきたこの街には
私を知る人など誰もいない
私の過去の過ちも苦しみも
誰も知らない
見知らぬ店
見知らぬ公園
見知らぬ交差点
見知らぬ人
すべてが不安ですべてが新しく
すべてにわくわくする
今日、見知らぬ街で
私の新しい人生がはじまる
【遠雷】
あたしは平和に生きているんだ
なにを言われても今のあたしには届かないの
どれだけ怖い顔をされても平気だし
殴られたって気にしない
あたしは童話の世界のお姫さまだから
どこか遠くで雷が落ちていたって
あたしには関係ない
今日も王子さまや森の動物たちと楽しく過ごすの
魔女より怖いあの人が怒っていても
あたしとは違う世界のお話
驚いても傷が増えても
あたしは綺麗でかわいいお姫さまのまま
【Midnight Blue】
深く深く深く
暗く暗く暗く
真夜中にしか見えない色を追い求めて
光を浴びることはもうないけど
それなら僕はこの夜を制する者になる
青く黒く冷たい空気を纏って
あの朝を葬る
誰のことも待たず
孤独を味方に
紺色の夢に溶けよう
太陽が遥か彼方に見えても
背を向けて歩き出そう
全てはこの真夜中で終わらせる
【君と飛び立つ】
この否定ばかりで非難ばかりの
透けた箱の中から
手を握り合って逃げよう
差し伸べられる手はなく
信じられるのは二人だけ
無感動で無情な
世界の向こう側へ逃げよう
辿り着いた高い塔
心無い言葉の数々を思い出しながら
やっと二人きりになれるねと微笑む
返ってきた笑みに歪みを感じたけれど
それでも僕は約束通り
君と飛び立つ
「ごめんなさい」
今の今まで一度も離れなかった手が
その瞬間に離れた
涙声が遠ざかってく
恐怖、痛み、暗闇、それから
永遠の孤独が訪れた