【雫】
まだ負けたくないと思いながらも
目からは雫が流れていく
それでも前には進むべく
拳を握って歩き出す
血も汗も数え切れないほど流したけれど
その雫も足跡のように
自分の後ろに落ちている
苦しみながらも立ち向かったことは
決して無駄ではないと
その雫が教えてくれる
【何もいらない】
お前が居れば何もいらない
そう思えるほど好きになれた人に出会えたことは
俺にとっての幸せだ
何もしなくていいから
何もくれなくていいから
ただ俺の隣に居てくれ
【もしも未来を見れるなら】
もしも俺が過去に戻って
あの未来を見ることができたならば
2020年の5月8日
彼女を一人で行かせなかっただろう
自分のタバコが切れたから
もう夜だっていうのに
彼女にコンビニへ買いに行かせたんだ
偉そうに「5分以内に買ってこいよ」なんて言って
付き合いたいと告白してきたのは彼女からで
俺のワガママをなんでも聞いてくれたんだ
たまに無茶なことを言っても
彼女は微笑んで「うん」って答えるんだよ
夜中に呼び出しても俺の家に来てくれたし
金をくれと言えば困ったように笑って
それでも結局は渡してくれた
俺の言うことを聞かなければ
彼女のことなど
いつでも捨てられるとさえ思っていた
そう
その日もいつもみたいに甘えてたんだ
俺は普段から
彼女の愛の方が
俺の彼女に対する愛より大きいと
無意識のうちに思っていた
だけどそれは
間違いだった
コンビニに向かった彼女は
暗い夜道を走ってきた飲酒運転の車に轢かれ
そのまま命を落とした
もう
寂しくて夜中に会いたいと連絡したくても
愛情の大きさを測ろうと
無茶な頼みごとをしたくても
その彼女は居ない
どんなことにも笑って応えてくれた彼女は
俺が大切にしなかったから居なくなったんだ
居なくなって初めて
俺は自分がこんなにも彼女のことを好きだったんだと
ようやく気付いた
もしもあの未来を見られるなら
彼女を一人で行かせたりしなかった
その代わりに
ごめん、いつもありがとうと言って
抱きしめたかった
彼女はきっと
嬉しそうに笑いながらも戸惑って
どうしたの?って言うだろう
俺も笑って、なんでもないと答えるんだ
そして
これからは絶対に大切にすると誓うはずだ
だけどあの未来を知らない俺は
偉そうにタバコを買いに行かせて
最後の一本を吸いながら
自分の部屋で彼女とタバコを待っていた
遅えな、何をチンタラしてんだよ
なんて悪態をつきながら
あれから4年経つけれど
あの未来さえ見えていれば
そう、何度も思うんだ
もう少しで
また彼女の命日がやって来るが
俺には彼女のお墓に行って
謝る資格もないと思っている
【無色の世界】
あなたと居る時は
全てのものが鮮やかに見えたの
なんの変哲もない風景も
あなたと居れば明るく輝いて見えた
だけど
あなたは私の前から姿を消した
あんなに美しく見えていた世界は
全て無色になり
どんなに素敵な風景も
私の目にはつまらないものに映る
何を見ても感動しなくなり
世界がくだらなく思えた
あなたが居たから
私はこの世界に居る意味があったのだと
あなたが消えてから気付いたの
全ての色を失った今
無色の世界で
あなたという色を探している
【桜散る】
あんなに毎日勉強していたのに
合格発表の日
張り出された紙に僕の番号はなかった
通うことのない学校を後にする時
桜が綺麗な道を通った
強い風が吹くと桜の花びらが散った
僕の夢も桜も散って
風が目に沁みて涙が滲んだ