【特別な夜】
アンタが好きだ、と言われて
俺は笑顔でそれを受け入れた
僕はずっとアンタだけを見ていたんだ、と
俯きながら話す君に
ありがとうと答えた
いつも通りの夜のはずだったのに
君の言葉ひとつで
特別な夜に変わった
【海の底】
深く暗く青い海の底
そこにずっと沈んでいる
遥か昔の宝物たち
輝くコインはすでに光を失い
綺麗な絵は跡形もなく
彫刻はひび割れわずかしか残っていない
それらが朽ちるのを見てきた魚たち
そんなことなどどうでもいいと
ただ生きて、暮らしている
海の底は今日も仄暗く、平和だ
数々の宝が価値を失おうとも
魚たちには関係ない
ゆったりとした時間の中で
金銀財宝に目が眩むこともなく
ただただ彼らは
この瞬間(とき)を生きている
【君に会いたくて】
ただの友達だった
何人かいる友達の中の一人だった
たった一度ときめいて
何度か電話をして
たまに遠くから手を振り合って
それだけだった
でも、どうしてだろうね
不意に君のことを思い出すんだ
朝、電車に揺られてる時とか
退屈な授業中とか
家で勉強してる時とか
お風呂に入ってる時とか
寝る前とか
気が付けば君のことを考えてる
一日中、頭の中は君のことばかり
ねえ、どうしてかな
たまにみんなで遊ぶ友達の中の一人だったはずの
君に会いたくてたまらないんだ
【閉ざされた日記】
ずっとずっと昔
私が中学生だったころ
毎日書いていた日記が出てきた
三十歳の私は苦い顔をしながらそれを開く
あのころに良い思い出なんて無かったと
知っているからだ
中を見れば予想通り
自分の願望を押し付ける親と喧嘩したことや
友達と些細なことで揉めて
そこからいじめに発展していったことなどが書かれていた
もう消えてしまいたいと、何度も書いていた
どれも泣きながら書いたのだろう
書いた文字が滲んでいるページがいくつもあった
二度と開くことなどないと思っていた
あのころの記憶ごと存在を忘れてしまいたかった
そんな、長いこと閉ざされていた日記
開いたことを後悔しかけるほど、読んでいて辛かった
でもね
中学生のころの私に教えてあげたいよ
親とは最近ようやく縁を切れたし
私をいじめていた奴らはみんな、ロクな人生を歩んでいない
そして私は
素敵な人に出会って
誰よりも幸せに生きている
消えなくて良かったと、何度も何度も思ったよ
消えなかったあのころのあなたに、何度も何度も感謝しているよ
【木枯らし】
心の中を木枯らしが吹くような
ひどく哀しい気持ちになった
あまりの寒さに耳が痛い
加えて頭も痛くなってきた
この寒空の下
いっそ冷たい空気に溶けていけたらいいと
思うほどに
独りというものは寂しいのだ