『例えば彼女の』
例えば彼女の花の植え方 紅茶に入れる角砂糖の溶かし方 もっと言うと服の上下の配色センス 誰もがみんなおかしいと感じている 彼女に面と向かっておかしいとは言わないが 裏で口を合わせて彼女のことを3時の紅茶のあてにしている 例えば私の花の植え方 紅茶に入れる角砂糖の溶かし方 もっと言うと服の上下の配色センス 彼女のようになれたらいいとほんの少し模倣する 彼女に面と向かって素敵だよとは言えないが いつか彼女と3時の紅茶を飲めたらいいなと思ってる
『何でもない日の花束』
蒼白い日々の行列 中間地点で皮を剥ぐ めくれた表皮に未来の斑点 冒険と称して何でもない日に意味を与える 無造作に集められた花達が束になり 今日は記念日と歌い出す 全ての何でもない人々が 生きてて良かったと思えるように
『スマイル』
とっておきのスマイルを朝市で競り落とす 裏表はわからない ただ第一印象は完璧だ どんな人でも悪い気はしないだろう スマイルをさらに競り落とす
裏表はわからない気にしない スマイルの大量の生産だ 利用しよう利用できるうちに そしてあれよという間にスマイルは0円になってしまった
『どこにも書けない詩』
待ち人達は書く 一雫の希望の詩を 餌を求めるひな鳥のようなその詩は承認欲求の海を海月と泳ぐ
どこにも書けない詩もある 顔から火が出るほど恥ずかしいので 冷凍庫の奥に置いてある 捨てればいいのに置いてある
『針の報せ』
時計の針、5分ごとに噴水の飛沫 寝耳に入る水
夕暮れに染まって 各駅停車 うるめいわしが良い塩梅で焼けている 冗談なら忘れてしまいたい 猿芝居で済ませたい 薄めのウィスキー水割りが 針の報せを聞くようにと僕を促がす。