10/10/2025, 2:11:49 PM
「花を育てています。入らないでください」
春先には、そんな手書きの看板がポツネンと佇んでいただけの畑であったが、今やすっかり姿を変えていた。
一面に秋桜が咲きそろっている。風がそよげば、可憐な紫色の花弁がたおやかに揺れる。少女たちがいっせいに笑うように、秋桜たちは皆、同じ角度でゆらゆらと揺れる。
散歩で通りがかるたび、夏子は一体何が育てられているのかと不思議に思っていたが、約半年を経てその答えがようやく分かった。
詳しい人なら葉の形で分かるのだろうが、あいにく夏子は植物にそこまで詳しくはない。
ふと、一輪が大きくしなった。葉陰の合間にのぞく、ふくふくとした茶色と白。雀だった。雀が秋桜畑の一輪に止まったのである。雀はしっかりと細い茎に趾をからめて、紫色の花弁の方にいそいそと進んでゆく。
可憐な花と可憐な小鳥。紛れもなく、絵になる瞬間だ。誰もが、この一瞬を切り取りたいと思うに違いない。
夏子も然り。彼女はそっとスマートフォンを構えた。画角に雀と秋桜をおさめる。花弁のそばで、雀がこてりと首をかしげる。シマエナガ顔負けの愛らしさだ。
夏子は、シャッターボタンを押した。シャッター音が鳴るが、雀は気づいていないのか動かない。夏子はさらに二度三度とボタンを押す。
突然、雀が鳴きながら飛んでいった。「もういいでしょ」とでも言わんばかりのタイミングだ。夏子は、つぶやく、「ありがとう」
それから、彼女は撮れた写真を確認した。三枚目はぼやけていてが、一枚目と二枚目はよく撮れていた。
秋桜の花と雀。
いい秋の思い出ができたと、夏子は頬を緩ませた。