世間でいう大型連休が終わると、我が子の大型連休が始まる。我が娘は接客業で、世間様が休んでいる時が繁忙期。今、その繁忙期が終わり、居間で昼寝をしているようだ。
起きていると何かとお喋りばかりで、家事を手伝い素振りもなく、これで結婚できるのか、と心配してしまう二十代半ばの女性。
しかし無防備に寝ている姿は、遊び疲れて寝てしまった子どもの頃のあのままだ。
あっという間に大人になってしまった。子どもの頃の愛らしさがどんどん薄れてしまっていく。子どものままでいてほしかったけれども、そんなのは無理な話で。
でも、いつになっても、我が子は我が子。親は大きくなっても親なのであって。
「ほら、そんな所で寝てたら風邪ひくわよ、掃除の邪魔だから部屋に戻りなさい」
眠気まなこで起き上がり、自室にとぼとぼ戻っていく。
この娘にも子どもができるのだろうか? 早く孫の顔はみたいけれども、不安でもある私であった。
【子供のままで】
死んでしまっては、何も伝えられない。
死人に口なしとはいうが、本当にそうだ。
私の不注意で、私は死んだことになっているが、実際はそうではない。
でも、何も言えなかった。
私の亡骸を見て、彼女は泣いていた。
傍らで、死を理解できていない我が子は不思議そうにしていた。
事故扱いの真相も伝えたいけれど、それよりも。
私は、あなた達のことを愛しているよ。
離ればなれになってしまったけれど、ずっと愛して、ずっと見守っているよ。
不安にならないで、悲しまないで。一緒にここにいるからね。
声はでない、伝わりもしない、それでも。
私は二人に愛を叫んだ。声にならない愛を叫んだ。
【愛を叫ぶ】
※シリーズものの作品です
目が醒めると辺りは青臭かった。
目の前は一面緑色で、さっきまでの記憶が何もない。
ここは一体……とりあえず、起きなければ。
そう思い、体を動かすと関節がなかった。ぐにゃりと体が動いたのだ。
変な自分の動きかたで改めて自分の体をみると、黄色。
よくよく考えてみると、この青臭さは……キャベツだ。よく見ると葉脈のような筋も見える。
と、なると、この体、毛こそ生えてないが、虫か!? アゲハチョウのようなでかい芋虫ではなさそうだ。さしずめ、モンシロチョウあたり。
あれ? 全くキャベツしか見てなかったけど、ものすごい視線を感じる。
ふと顔をあげてみると、巨人達がぎょろりとこちらを見つめている。物凄い人数だ。
もしやこれは、学校の教材となっている……?
落ち着いて頭の整理をしてみる。
記憶はない、が、たぶんこれは、今ブームの「転生」を果たした自分。
転生した先は、学校の教材にもなっている、おそらく、モンシロチョウ。しかも今生まれたて。
と、いうことはだ、まっさらな自然に放り込まれた訳ではなく、毎日何不自由なく、ご飯を食べて寝てを繰り返すだけの、敵に襲われる心配もない、ハッピーライフなのでは?
異世界転生なんてのがブームらしいが、自分はこういう短いサイクルでハッピーライフを送れるほうがあっていそうだ。
前世の記憶はほぼないけれど、セカンドライフを満喫しようと、むしゃむしゃとキャベツを頬張った。
【モンシロチョウ】
私は外食が怖くてできない。
家ではたくさん食べれるのだが、外食となるとご飯が喉を通らなくなる。
病気なのかと思って調べてみると、外食恐怖症、というらしい。
過去のトラウマや遺伝もあるらしい。そのトラウマの例を見て、納得をした。
幼稚園の頃の給食、残さず食べきれない人は遊びも禁止で、ずっと給食とにらめっこをしていたあの日。
小学生低学年でも、五時間目の授業が始まったのに、食べきれずに給食を机においたままだったあの日。
忘れられない思い出で、これがいわゆるトラウマのようだ。
他にも、親からの箸の持ち方が大きくなってもおかしい、恥ずかしい、と注意を受けていたことも相まって、人前でのご飯が難しくなったのだ。
小さい時のしつけ、大人になっても違う形で影響を受けているのだ。忘れられない、いつまでも。
【忘れられない、いつまでも。】
※実話
そう遠くでもない、一年後の話。あなたは何をしていると思う?
今と同じように暮らしているだろうと思っていた。
学生生活が終わるとか、結婚するとか、子どもが生まれるとか、そういう節目の年でもなければ、きっと一年後も今と同じだと思っていた。
今と同じ場所で今と同じ仕事をして、ただ平凡な毎日を過ごしているだろう、と。
でも、現実は思っていたよりも波乱万丈な時もあって。
電撃結婚しているかもしれないし、事故にあって寝たきりになっているかもしれないし、自然災害で今住んでいた場所がなくなったり、突然会社を解雇されるかもしれない。
何も変わらない一年後が十回巡ってきた十年後の未来は?
今と同じように暮らしているとは思えないよね?
積み重なった一日一日、辿り着いた一年後、あなたは何をしていると思う?
【一年後】