あなたのもとへ
植物園の中、周りの植物に紛れるように深緑の髪が揺れる。
この1ヶ月で見慣れた後ろ姿を捉え、いつものように抱きついた。
「わっ!……F、急に抱きつくのはやめてくれないかな?」
そう言いながらも彼女はFを引き剥がしたりはしない。好きに抱きしめていると軽い力で腕を叩かれた。少し腕を緩めると小さな袋が差し出された。
「ほら、今日も貰いに来たんでしょ?」
渡された袋にはクッキーが入っていた。
1ヶ月ほど前からFは彼女のもとを訪れてはお菓子を貰っている。
何故そんなことになったのか、始まりは覚えていない。
「ありがと〜、ねぇ今日は何する?」
「じゃあ今日は水やりを手伝ってくれる?」
「おっけ〜」
彼女にお菓子を貰い始めてから少し経った頃、幼馴染にそれがバレた。
隠しているわけでもなかったのだが、Fが彼女から対価もなしにお菓子を貰っていると知った幼馴染はそれはもううるさかった。
タダより怖いものはないんだ!早く対価を決めてもらってこい!!
「...ってうるさくてさぁ」
「うーん、別にFだけじゃないし気にしなくてもいいんだけど…」
「それじゃオレが怒られんの。何かしてほしいこととかないの?」
「そうだな、じゃあ資料を運ぶのを手伝ってくれない?」
「そんなことでいいの?」
「お菓子ひとつの対価としては十分だよ」
それからFは彼女のお菓子を貰い、その対価にちょっとした手伝いをするのがルーティンとなっていた。
水やりをしていると徐に彼女が話しかけてきた。
「それにしてもFは本当にお菓子が好きなんだね」
「んー?」
「いや、Fのことだから早々に飽きて来なくなると思ってたんだよ。手伝いも面倒だろうし」
急に何を言い出したかと思えばそんなことを思っていたなんて。酷く気分屋である自分がお菓子が好きなだけで毎日毎日会いにくると本気で思っているのだろうか。
「あは、アンタってほんとおもしれ〜」
「えっ、違った?」
「ううん、合ってる好きだよ」
「よかった。Fは食べたいお菓子はある?リクエストがあれば聞くよ」
「じゃあ──」
Fは明日もまた彼女のもとへ行く。
彼女に会うために。