いつか、どこかに落としてしまったのだろうか
それとも、持たずして生まれ落ちたのだろうか
どこかで無くした
はたまた最初から持ってなどいなかった何かは
世界を巡れば拾えるのだろうか
もしそれを見つけたら
この空白は埋まるのだろうか
ここから踏み出す勇気もないのに
いつか、巡り会えたら
それを拾う資格などなくても
いつか。
『巡り会えたら』
奇跡など祈らない
あれだけの奇跡を知って
もう、望むどころか祈ることすら
おこがましいような気がして。
私には一度きりの奇跡がちょうどいい
『奇跡をもう一度』
きっと神の腹の中はこんな色をしている
いっそ恐怖すら覚えるほどの
禍々しい赤が世界を蹂躙する
誰が誰でも、そんなことに意味はない
わかったところでどうにもならない
きっと、これから消化される物になど
赤の主は興味がないだろう
『たそがれ』
足掻くように息をしている
自分から終わることも
何かを成すこともないまま
生きるには重たく
死ぬには少し諦念が足りない
わかっていた。わかりきっていたことだった。
死ぬことに必要なのは覚悟ではなかった
人は生きながらに死ぬことができた
生きながら地獄を知ってなお、
それでも生にしがみつきたい自分がいた
何かを成せると信じたい自分がいた
毎日、まいにち、
明日は今日になって
今日はきっと、昨日になる
少しずつ、諦めながら、
それでも足りないと夜は明ける
積み重ねた夜に、
積み重ねた、そんな諦めに、
きっと明日も生かされる
『きっと明日も』
太陽の光も届かぬ時間
されど月光は紛い物に過ぎず
天に昇っても地に潜っても
我こそが支配者と存在を主張する
昼も夜も、光ある限り
決して孤独では無い、孤独でいさせてはくれない
光なくしては、生きることもままならない
生かされている
手のひらで転がされている
殺すも生かすも御心のまま
それでも縋る
光だけが静寂を慰める
『静寂に包まれた部屋』