28日目
特別になりたかった
個性を大切にと言いながら
実際は集団への帰属を求める社会
私はそんな社会に染まっていた
個性を出して目立つよりも
周囲と足並みを揃える方が楽だった
でもどこか物足りなかった
このままでいいのかと考えてしまった
だから私は飛び立つことにした
足枷を解いて翼を広げ
自由という不自由の元へ
個性という名の孤独な世界へ
鳥籠の外は思っていたより狭くて
それでも迷うくらいには広かった
個でありたいと願ったのに
気づけば帰属意識の塊となり
羽根はもげてゆっくり堕ちていった
27日目
1番欲しいものそれは勇気だ
僕は傍から見ればけっこう上手く生きているだろう
運動もできたし成績もそこそこよかった
現役で大学に行ってそこそこの企業に就職もした
だが、それがなんだと言うのだ
学校は好きじゃなかったし
いつだって周囲との温度差を感じていた
上手く生きたくなんてなかった
「自殺や引きこもりは逃げだ」と言う人がいる
それは彼等の視点では正解なのだろう
しかし僕にはほんの少し眩しかった
周囲の目を捨てられた彼等
周囲の目を気にして「上手く生きている」自分
そんな自分を捨てる勇気が僕は欲しかった
26日目
「むめ」はある種のコンセプトだ
思考と感性の分離を目指した結果だ
初めは誰よりも純粋に、無邪気に生きようとした
けれど真っ直ぐ生きるにはこの世界は酷すぎた
正しく生きることは出来ないと思ってしまった
だからこそ純粋な感性と
どうしようもない思考を分離しようと考えた
その結果生まれたのが「霧雨」と「夢芽」だ
霧雨の中でも光の中に恋をして夢の芽を咲かせる
これら2人が1人で「むめ」だ
25日目
いつからか視線の先には彼女がいた
楽しげな表情、大きく開く口
その口から発せられる言葉は綺麗だった
彼女は手も美しかった
誰よりも繊細でしなやかな指先
その手から紡がれる言葉は優しかった
嗚呼その声を聞くことが出来たのなら
24日目
「終わりにしよう」
彼は練習する部員たちに向かってこう言った
「終わりにしよう」
彼は泣きじゃくる彼女を前にこう言った
「終わりにしよう」
彼は煙草の空箱を手にこう言った
「終わりにしよう」
彼は共犯者に対しこう言った
「終わりにしよう」
彼は我が子の首に手をかけこう言った