みんなは僕を完璧だって言うみたい。勉強もできて運動神経も良い。それに、イケメンで人当たりがいい。先生や先輩、後輩にまで好かれている。こんなパーフェクトな人間いるのか、と言われるくらいだ。
だが、僕はそうは思わない。寧ろ、僕自身は短所の方が多いと思っている。勉強も運動も小さい頃から努力してきたから、賞賛されるのは嬉しい。でも実際は、数学は3より上に上がらないし、持久走のタイムは平均よりもかなり下だ。人付き合いも、相手の気持ちを理解出来ずに傷つけてしまう言い方をしてしまう時もあるらしいから、人当たりがいいと言われるのはどうかとも思う。
こんなこと言っていると、周りから偏屈だと思われそうだけど、みんなは僕にはない魅力がいっぱいあるのに、それを魅せないのは勿体ないんじゃないか?完璧な人なんてこの世界にいる訳じゃないんだから。
もし、僕が完璧な人間だったら、面白味もないし興味を無くすと思うな。
道端でふっと懐かしい香りがし、足を止めた。シトラス系の爽やかで、でも主張しない心地のいい香水の香り。私は、これをどこで嗅いだのだろうか。思い出せそうで思い出せないもどかしさが、さっきまでの心地よかった気分をぐちゃぐちゃにさせる。
香りというのは、思い出よりも印象に残りやすい。それが良い記憶だったか悪い記憶だったとかは置いておいて、私にとってはきっと、忘れきれない思い出だったに違いないだろう。そう割り切って、また歩き始めた。
何か話さなくても、彼の求めているものは分かっている。今日の夜ご飯はハンバーグがいい、仕事が遅くなるから一緒にご飯はたべれない、たまにはかまって欲しい、...まあ、挙げだしたらキリがないが。彼は無愛想な分、ちょっとした表情や仕草ですぐ分かるのだ。初めて出会った時から不思議と、彼の恋人になるために生まれてきたんだろうなってくらい誇れる力だ。
とは言ったものの、今日の彼はどこかおかしい。どこか落ち着きがないし、顔も少し赤くなっている。何か謝りたいことがあるのか?いや、そうだったら手を後ろに隠している理由が分からない。ということは、手に何か持っているのか...?プレゼント...にしては小さいように見えるし、今まで貰ったものはマグカップを例にしてもサイズが大きかった。
-あれ?もしかしてこれはアレなのでは?
私は、思いついた話題をだそうとたが、あえて口を閉じる。だって、彼が最初に言い出さないと雰囲気が台無しになるじゃないか。
半年ぶりくらいだろうか、いや、それ以上だろうか。
しばらく学校に行かなかった私のところに、君が来てくれた。
君はいつもと変わらない声で話しかけてくれる。嬉しく感じるのに、心の奥底に罪悪感も湧き出てくる。私と話してたら、私と同じことになるのに...。
「あ...あのさっ、よかったら僕と付き合ってください」
突然の告白。思いもよらず笑みがこぼれてしまいそうで、でも、その気持ちを殺してしまった。君が傷つく姿を見たくないから、悲しむ姿を見たくないから。何より、私は貴方が幸せにしてる姿を遠くから見た方が良いのだ。
君が消えた玄関を、ただぼうっと見つめ、一雫の涙を零した。
灰色がかっていた空はやがてさらに暗くなり、いつの間にか雨粒が窓を強く打ちつけていた。図書館へ出掛けていた私は、どうやら勉強に集中しすぎて眠ってしまったようだ。
どうしようか。傘は持ってきていないし、そろそろ帰らないといけない時間だ。周りには人が居なく、司書さんがいるだけ。...仕方ない。とりあえず、雨脚が弱まるまで待っていよう。私は再び書きかけのノートを睨みつける。激しい雨音が、眠気で鈍くなった感覚を研ぎ澄ませてくれる。そんな感じがした。