杙里 みやで

Open App
5/5/2024, 1:07:25 PM

「君と出逢って」

君と出会って、数十年が経ちましたね。
最初に出会ったのは病院で、貴方が大泣きしているもんだから、気になって私が話し掛けたのがキッカケ。その時から始まった私達の関係は、歪でこそあったけど…いや今思い返して見ると本当に中々の歪ね。
友人と言える程楽しい会話をした訳でもないし。
知人といえる程そこまでよそよそしい感じでもなかったし。
親友、とも違ったわよね。
家族、兄妹、親戚?
うーん。どれもそれっぽいものがない。
ねぇ貴方、結構頭良かったし私達の関係を表す様な言葉知らない?
ってこれ前も聞いたわよね。でも、その時貴方なんて言ったかしら。
……布衣之交、、?確かそう言ったわよね。
そういえばこの言葉の意味結局なんだったのかしら。
調べようと思ってもついつい、忘れちゃうのよね。
歳かしら?
…………………、そこは笑う所よ。
まぁ、でもいいわ。貴方結構無口な方だったし、
お喋りするのは何時も私の方だったわよね。
、?あぁ違うのよ。別に怒ってはないわ。ただ、、
なんて言うのかしらね、強いて言うなら、11年前受けた悪戯の仕返しよ。
あの時は貴方酷かったわよね、いえ、私も悪かったわね。何せ小さな事で貴方怒りだしちゃって、それで私も頭に来ちゃって、お互いに突き放しちゃったのよね
ねぇ………………………今でも思い出すのよ。
あの時、すぐにでも引き止めて謝ればよかったって。
あの時、私がもう少し大人な対応が出来たらって。
あの時、あの時さえ、なければ私達は今でも楽しく歪な関係で居れたのかしら。

友人から聞いたの。
11年前 貴方の誕生日の日に喧嘩しちゃったでしょう?それで貴方怒って地元へ帰った。でもその後私と仲直りしようとして私の地元の方まで来てくれたのよね。私の大好きなアップルパイ片手に。


私、貴方のせいでアップルパイが苦手になってしまったのよ。見れば、食べれば、いつも隣で笑ってくれた貴方のことを思い出すから。

貴方が好きだって言ってた物。私があなたに好きだって言ってた物。今の私じゃ、全部、全部嫌いなものになっちゃった。


ねぇ、声をきかせて頂戴?、人は声から忘れていくと言ったのは貴方でしょう?お陰で私はもう、貴方の声、思い出せないのよ?

ねぇ、顔を見せて?たった1枚の写真からじゃなくて
わたしの目から見る、貴方の顔を。

ねぇ、貴方の手はどんな感じだったかしら?ゴツゴツしてたかしら、ふにゃふにゃしてたかしら。

ねぇ、もう私は、貴方の纏ってた匂いだって覚えてないの。

「ねぇ、お願い、お願いよ、もう一度私に会って。
あの時謝罪をさせてちょうだい?そしてもう一度あの歪な関係を送りましょう?」

┈┈┈┈

ある墓の前で、女は何度も懇願する。
まるで、見えない何かが見えているかのように。
あの墓場は震災で無くなってしまった人の墓が連なっている場所だ。

毎日、誰かしらが花を手向ける。

彼女はこの場所で一年に一度、今日この日、この時間帯に決まってくる。

「なぁ、お前の墓だろ?行かなくていいのか?」

「行かないよ。」
静かにあいつが答える。

「じゃあ一言なんか言ってやるとか。」

「言わないよ。」
あいつはまた静かに答える。

「お前の女が泣いてんだぞ。」

「……もう僕なんて人は過去の男なんだ。彼女には僕なんて男は忘れて次の人生を歩んで欲しい。」

あいつはそう言って何処か悲しい目をしていた。