『言葉はいらない、ただ…
…抱きしめてほしかったんだ。』
そうして彼は旅立った。
あの桜の舞う中庭で、あの人はただ、
笑みを浮かべていた。
整えたものを全て出し切り、ひとつの場所に集うことをキッカケに意識する。
皆がそれぞれ思い思いに過ごした年数以上をこれから生きることになるだろう。
【20歳】という大きな節目を超えた青年らは、正直無敵だと思う。
【クリスマスの過ごし方】
暗い部屋でパソコンの前に座る少女。
メガネをして、前髪を下ろして、視界が狭まる。
しかし彼女には見えている。
今日だけは、見えている。
あの人を、あの人の隣にいる何かを。
納得はしたつもりだった。
でもやっぱり辛いのだ。
心が痛い。このまま消えたいくらいには。
好きだった。
でもこれで、終わりにしよう。
心の中でそう決めて、少女はパソコンの前から退く。
ディスプレイには、憎らしいほどに輝く光の道の道に立つ1人の男性と、少女に似た女性が幸せそうな顔で抱きしめあっていた。
失ってようやく気づくモノ。
でも失ったらもう遅い。
だから、一瞬一瞬を大事に生きよう。
そうしたら、いつか、その宝物に触れられるかな。
柔らかい雨
1人で寂しいの。
でも、あなたがいてくれるから……
私は生きていられるの。
涙の数だけ強くなれるよ。アスファルトに咲く花のように。
なんていう歌が昔は聞こえていたけれど、今ではあまり聞かなくなったわね。
というか、アスファルトに咲く花からすれば、涙を流せば強くなる人間と私たち花では全然違うの。
花には水は必要不可欠。だけど人間は違うでしょう?涙を流さなくたって生きていられるじゃない。
……あら、泣いているの?
…ふふっ、私は見ていないわ。泣いてないのなら何で私は濡れているのでしょうね?
雨よりも柔らかい雨みたいね。だって、泣いていないんでしょう?
1人で寂しかったのよ。ありがとう、話し相手になってくれて。