のねむ

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12/16/2023, 4:45:00 PM

 咳が止まらないので病院に行くと、風邪ですね、とあっさりと診断され、熱が出るかどうか聞かれたので、出てませんと言えば、これから出るかもしれないから念の為ね、と普通の風邪薬に加えて解熱剤も処方された。
 薬局は薬を待つ人で溢れていた。あちらこちらから咳が聞こえて、風邪が流行ってることがよく分かる。
 何分、何十分、一時間は待っただろうか。やっと名前を呼ばれて薬を取りに行けば薬剤師の女性がすみません、と申し訳なさそうな顔をした。
「お熱が出るお子さんや、大人の方が沢山増えていて、あの、そのう、解熱剤なんですけれども今、座薬しかないんです」
 咳は出てても熱は出ていない。とんでもなく寒気がするわけでもない。このまま発熱せず、治っていくだろうし、座薬の出番はないと思い、座薬を貰って帰る。
 その夜、予想は見事に裏切られ、じわじわ襲いかかる寒気からあっという間に熱を出した。子どもの頃から病気になると気が弱くなって、ひんひんと泣いてしまう癖がある。そうすると決まって母がやってきて、大丈夫、大丈夫と頭を撫でてくれていたが、一人で暮らすこの家では頭を撫でてくれるような人間はいない。
 止まらない咳と、頭痛と、寒気と、熱で布団の中でひんひんと泣いていたら、座薬の存在を思い出した。いいや、そんなまさか。泣きながら座薬は使うまいと心に決めたけれど、数十分後にはやはり耐えられなくなって泣きながら袋から座薬を取り出した。
 大人になって、泣きながらお尻を丸出しにする日がくるなんて思わなかった。ひんひん泣きながら四つん這いになる。
「おかあさん、こわいよう。いたいよう。誰か入れてよう」
 ひんひん泣いて、泣いて、だけどこの部屋には自分以外誰もいないから頼れるのは自分しかいないわけで。
「ええい!ままよ!」
 
 座薬を入れたあと、頭を撫でてくれるお母さんのかわりに自らの尻たぶを優しく撫でて大丈夫、大丈夫とひんひん泣きながら唱えた。一人暮らしはつらい。

12/13/2023, 6:00:08 PM

 底に穴が空いたマグカップのように、あなたにどれだけの愛を囁いてもこぼれ落ちてしまうばかりで、少しもそこに溜まらない。諦めてしまえばいいのに諦め方が分からなかった。もういいよって言ってくれればよかったのに。たった一言、その言葉をくれたら私だって、次の恋を見つけることができたのに。彼ってすごく意地悪だ。そうして、そんな人を好きになった私の目も穴が空いたマグカップのように、きっとずっと節穴なんだ。