#約束
愛してる 大好き だから、いい子で待ってて
すぐ帰ってくるから
仕事が忙しくて帰れないの ごめんなさい
ママとの約束ちゃんと守って いい子で待っててね
ママの一番の宝物
あなたがいないと
私は生きていけない
今夜はちょっと大事な用があるの
明日は必ず帰るから 約束する
ねぇ…、いつになったら約束は 守られるの?
#ひらり
夏を彷彿とさせる、刺すような日差し
そこに吹き抜ける、まだ冬の残り香を纏っている風
……また、この季節がやってきた。
あれは3年前
新しい生活の準備をしていた時だった
スマホに一通のメール
お世話になった恩師の突然の訃報
頭を鈍器で殴られたような衝撃だった
いつでも会いに行けると思っていた。
顔を見るまで、これは間違いだとも思った
斎場の敷地内、肌を刺す風と早咲きの桜
着慣れないスーツ、纏わりつく線香の香り
そこに舞う桜のはなびら ひらり
#誰かしら?
妻が私のことを忘れた。
連れ添って30年余り
やっと、様々なことが片付いて
これから先、短い人生
どちらが先に逝っても良いように
思い出を作ろうと思っていた矢先だった
医者からは、進行が早いだろうと言われた
何とかこれまで頑張ってきたのだが、ある日
『おじさんは、誰かしら?』
言葉に詰まった…
首を傾げる妻に、
『僕は、誰よりも君の側にいたい人だよ』
そうして、今日もまた彼女からの
誰かしら?に返事をする
#芽吹きのとき
辛酸なめ、苦節10年………
本日、デビュー
#あの日の温もり
あの日は、刺すような頭痛に悩まされた日だった。
目から入る光にさえこたえた…
自室まで持たず、床に座り込みそうになり
手をついた扉に書かれていた文字は〘リネン室〙
最後の力を振り絞り、倒れ込むように室内へ
やっと意識を手放せるかと思った矢先
鼻に付く、嗅ぎ慣れない香りに痛みが増した
吐き気までこみ上げてくる始末……
その時、入ってくる誰かの足音。
そばで屈んだその人から香る新緑のような香り
顔は分からなかったが、シャツに手をかけ
自分の元へと引き寄せ、温もりと香りに包まれながら
意識を手放した。