たとえ間違いだったとしても―――
なんてカッコいい言葉私には似合わない。わかってるよそんなこと。でも――
「うち、やっぱ行くよ。」
「正気?!サチ‼あんたっ…何で?どうしてよ?」
「ヨラ、うちらの家…ね?」
だからだよと、くしゃっとサチが笑う。
「…あんたがいくならアタシもいくよ。一人ぼっちは…嫌だからさ…。」
ヨラはうつむき自嘲気味に笑う。暗い笑みだ。
「この世界はさ、明るいのさ。だから暗いものにはなかなか気付けない。光で照らされて影なんか見えなくなるぐらいの光でね。」
ヨラは両手を太陽にかざす。…今日は快晴だ。
「…アタシには眩しすぎたのさ。皆が、普通が。」
「アタシ“たち”でしょ」
そう、というヨラの顔は見えない。太陽のせいで。…風が気持ちいい。あたたかくって、ちょっと甘くて…でも苦くって……。
「…そろそろ終わる?」
ヨラの笑顔。暗くて深い、新月みたい。
「うん。」
「あ、手紙書いた?」
「ヨラったら、書いたに決まってるじゃない!」
「そっか。」
「うん」
風が吹く。ちょっと冷たい。
「うちね、ヨラにも手紙書いたの。」
横を見るとヨラが目をまんまるにしてた。
「アタシも」
暫く笑った。こんなことがあるなんて!ってね。
「最期の最期にこんな笑うなんて思ってなかったわ!」
「アタシもよサチ!」
「ヨラ、見せ合いっこしよ」
「勿論」
パラリ…パラリ…カサッ…カサッ…紙の擦れる音。紙の匂い。
「……サチぃ」
「うぅっ…ひっく」
二人で泣いた。ずっと、ずっと。気付いたら町はキラキラ光っていた。帰りを心配するものはいない。
二人は手を取り合って町を見下ろす。
「ヨラ。じゃあ、終わろっか」
「うん」
「サチ、今までありがとう」
「ヨラ、今までありがとう」
「「地獄でも一緒だよ」」
風を切って落ちていく。涙が上に上ってくのがわかる。
最期までやっぱり、町の光が眩しいや。
屋上には包丁と2通の手紙ときちんと揃えられた靴が2足。それだけが残されていた。