●死ぬ場所ならココがいい●
くたびれた毛布に、
変色して穴だらけのタオルケット。
ヘコんだマットレス、
枕はこだわりの低反発。
枕元にはお気に入りの猫のぬいぐるみと、
漫画とスマホ。
そして、落ちつく匂い。
パジャマは毛玉だらけだけど、
寝床が私にとって最高の場所なのさ♪
“お気軽にエッセイ!
とあるOLのこだわりの生活”
P25から抜粋。
。
#今回のお題は【楽園】でした。
●ハンドサイン●
ここに一枚の写真がある。
血だらけの異国の兵士が
横たわっていて
微笑みながら弱々しく
ハンドサインをしている写真だ。
この写真は私が
フリーのジャーナリストとして
あちこち世界を飛び回ってきた時に
撮った一枚だ。
約束なのでこの写真を撮った時に
その場に居た人しか知らない場面だ。
この時の事はよく覚えいる。
当時異国の地に降り立った私は、
先の異国同士の争いで
戦場になった町の被害者の人々から
話しを聞いて回っていた。
真実を伝える、
それが我々ジャーナリストの使命なので、
この戦いから生きのびた人々話は、
とても貴重なものなのだ。
あの時も取材をしようと
この町の住民を探し、うろうろと歩いていた。
争いが終わったとはいえ、
異国から来た私は、
そうとう警戒されているので
取材も一苦労だ。
どれくらい歩いたか、
ボロボロの1軒の家屋から
怒号が聞こえてきた。
何事かと恐る恐る家のドアを
ノックしてみたら、怒号は止み
そこの住民が“何だ?”と言わんばかりに
ドアを開けた。
私はあの怒号が何なのか知りたくて
どうか取材をさせて欲しいと
通訳を通して伝えてもらったら
“悪魔がいるけどいいか?”
と返事が来た。
“悪魔”その言葉が一層気になり、
取材の許可をもらい、
私は、部屋の奥に招かれた。
中には、数人の若い男から
ヒゲをたくわえたおじいさんまで
10人以上は居たと思う。
部屋の真ん中には
明らかに、この町の住民ではない、
兵士らしき男が、一人横たわっていた。
彼は血だらけでもう虫の息だった。
ここにいる住民から
そうとう暴行を受けたんだと思われる。
その証拠に、ここにいる人々の顔は、
怒りとも何とも言い難い表情をしていた。
拳が赤い若者も何人もいた。
私は、こんな大勢で何をしているのか?と
通訳を通して聞いてみた。
この部屋にまねいた男は、
『こいつはこの町をめちゃくちゃにして、
大切な家族を奪った悪魔だ』
と言った。
『だから、我々で制裁をくわえているんだ』
目に涙をためながら
興奮気味にそういった男。
その時、私に気づいた兵士が
力を振り絞り、こっちに来てくれ。
みたいなジェスチャーをしたので、
男に許可をもらい、兵士に近づいた。
『おい、逃がしたりするなよ』
そんなニュアンスの言葉を
背中に浴びたが、
通訳を通さなければ、言葉は分からない。
兵士は、助けを請うわけでもなく、
私が首からぶら下げていた
カメラを指さした。
私はシャッターを切った。
今、彼を撮らなければならない、
そう思ったからだ。
シャッター音と共に
謎のハンドサインを
した腕が床に落ちた。
一瞬の事だった。
この時、彼は微笑んだ気がした。
現像してみないと分からないが、
彼は確かに微笑んだ。
何で、こんな酷い目にあっているのに、
彼は微笑んだんだろうか。
写真を撮った後
住民の男にカメラを取り上げられた
『何で悪魔の写真を撮った?
この写真で我々を脅す気か?!』
通訳を通して
『そんな事はしない、ただ、
私の個人的な記録として
撮っただけだ。
だから公表もしない』
と、伝えて貰った。
男はカメラをかかげ、
お金のジェスチャーをしてきた、
いくらか渡してようやく
カメラが戻ってきた。
このカメラには、そこに横たわる
ただの抜け殻になってしまった兵士の、
終わりの瞬間が入っている。
住民も分かっていたんだろう、
この兵士が悪いわけじゃ無い。
悪いのは他の所にある事を。
それから、
私は帰国をして、
あの時撮った写真を現像した。
現像した写真を見ると
確かにあの兵士は微笑んでいた。
そして後に、
あの謎のハンドサインの意味を知る。
“幸運を祈るよ”
兵士は自分の死をすぐ前にして
他者の幸運を祈っていたのだ。
この写真は今も私の中で
もっとも美しい瞬間をおさめた
写真だと思っている。
fin,
#今回のお題は【刹那】でした。
●生きる●
食う!寝る!ふんする!しっこする!
毛ぇ繕って!狩りもする!
そして、時々種を残す!
それで、また寝る!
以上!
とあるにゃんこの福音書から抜粋。
。
#今回のお題は【生きる意味】でした。
●善悪おじさん●
どうしよう…選ばれてしまった、
とある事件の裁判員候補者に。
ある日の事、裁判所から来たお知らせに
私は愕然としていた。
とある事件の裁判員候補にこの度選ばれたのだ。
裁判員裁判の裁判員候補者になっていたのは、
以前来た封書で知ってはいたが、忘れていた。
その当時は確か、
“私には無縁の事”
“そもそも選ばれるわけが無い”と思い、
送られてきた調査票には、
何事も辞退する理由もないので
その旨を書いて返送したのであった。
その時の私は、
選ばれる事なんて微塵も思わず、
すぐに普段の生活に戻り、
いつもの日常を過ごしていた。
それでもその時から、BGM代わりに
つけっぱなしにしているテレビから
流れる出る色んな事件や事故の音に無意識に
耳を傾けていたと思う。
私が選ばれた事件はその中のモノだったからだ。
その事件の裁判員候補に選ばれたと知った時は
テレビでしか見たことの無い有名人に
偶然出会ってしまったみたいな…、
そんな感覚。
有名人に会った事はないけれど、
私の感覚では多分そうだろう。
その事件は、それだけ酷い事件だったから。
裁判所からのお知らせに
当時騒がれた事件を思い出し
じわじわと不安が押し寄せてきた。
私はこの事件の裁判員候補。
他にはどんな人が選ばれたんだろう、
この事件を擁護する人?叩く人?
私はどっち?人が人を裁いていいの?
そもそもこの事件の内容は…。
気がつけば、部屋の中をぐるぐると
歩き回っていた。何週したんだろう。
ポコポコ音がする水槽をみてみると
数年前に縁日ですくった
金魚がこちらを見ていたような気がした。
ちなみに名前はカネコだ。
うーん、うーん。分からない。
そもそも悪い事をしたから悪いわけで、
それで裁判するわけで…。
まだその事件の裁判員に
決まったわけじゃないし…。
私はいつの間にか水槽に顔を近づけていて、
ぶつぶつとカネコに話しかけていた。
その時、ふと思い出した事があった。
友達と祭りを一通り楽しみ、
すくったカネコが入った水袋を手に
そろそろ帰ろうかと歩いていた時、
『この街には善悪おじさんという人がいるんだよ』
そんな言葉が聞こえ
一瞬時が止まった感覚がした。
『何それ?』
『善悪おじさんに私はどっち?って聞くと
聞いた人の善悪を教えてくれるんだって』
『善悪?意味が分からない』
『ねー』
人混みからそんな会話が聞こえたのを
思い出した。
…そう、善悪おじさん。
その時はこの街の七不思議か何かと
友達と笑い合っていたけど
今考えると何でそんな会話が、
あの人混みの中で、鮮明に聞こえたのが
不思議でならない。
私はその出来事が運命だと思い
人の善悪を教えてくれる人なら
もしあの事件の裁判員に選ばれた時
ちゃんと裁きを下せるんじゃ無いかと…
気がつけば靴を履き外に出ていた。
場所は…
『意味は分からないけど面白そう!
その善悪おじさんってどこにいるの?』
『んー、わたしが聞いた噂によると、
海辺の公園の近くだって』
『あ!ママに近づいちゃ駄目って言われてる所だ』
…海辺の公園の近く。
そこは昔ホームレスの集まる場所だった。
今は一斉退去させられたとかで、
そこに居た人達人がいなくなっただけの
ただの寂しい場所だ。
来週の何曜日だったか
私は裁判所にいかなければならない。
そこであの事件の裁判員になるか
ならないかが正式に決まる。
それまでに、
本当にいるかも分からない
善悪おじさんに私は会いたかった。
善悪おじさんに何が正しいか
聞いてみたかった。
仮に、私が裁判員の1人になったとして、
考えてみた事があった。
すごく酷い事をした奴だから
無期懲役とか死刑が妥当だと、
そう意見を述べよう、と。
そいつは酷い事をした悪い奴だから、
それが正しいと。
簡単な事だ。
“悪いコトをしたなら罰が下る”
誰しもが幼い頃から
ずっと大人に言われてきた事。
だから、判断を下す事なんて、
簡単な事だと、
…そう思っていた。
答えは出さなくても
昔から決まっている事なのに、
無駄に何回考えてもそれは違う気がした。
私にとってあの事件は、
テレビから流れ聞いただけで、
ただ知っている、無関係な人間。
ただそれだけなのだ。
善悪おじさんだったら
どう答えるのだろう。
あれこれ考えてる内に、
海辺の公園の近くまで来てしまった。
ホームレスの一斉退去後に
キレイに整えられたその場所は、
人が居ないせいなのか何なのか、
私には無機質な場所に思えた。
「…居るわけ無いかぁ」と、
思わず独り言。
考えすぎて張り詰めた心が
一気にほどける。
『こんにちは』
安堵にも似たような気持ちになっていた所に、
突然かけられた声。
善悪おじさん!?と、
一瞬びっくりしたけども、
私に声をかけた人は、
この場所に月に何度か
清掃に来ているであろう
作業着を来たおじいさんだった。
作業着に何とか清掃サービスと
書かれている。
「こ…こんにちは…ぁ…」
恐る恐るする必要もないのだけれど、
変な声色になってしまった。
普段誰も近寄らないような場所で、
私一人。しかも平日の昼過ぎ。
普通に仕事は休みだけれど、
例えるなら学校をズル休みして、
ここへ遊びに来た、みたいな
後ろめたい気持ちが声に現れた。
作業服を来たおじいさんは
私の変な声の挨拶に微笑むと、
私の事を気にすること無く
掃除を始めた。
「あの、善悪おじさんって知ってますか?」
『え?』
ここに掃除に来ている人なら
何か知っているかもしれない
つい言葉が出てしまった。
清掃のおじいさんは
突然の問いに驚いた様子だったけど
『懐かしい言葉だね、善悪おじさんか』
まさかの回答だった。
「善悪おじさんの事、知ってるんですか?」
おじいさんは掃除の手を止めず
笑いながら答えてくれた。
『知っていると言えばしっているけど、
知らないと言えば知らないかな』
「え?」
『あやふやでごめんね。
…ところで、ちょっと前まで、
ここがホームレスのたまり場だった事は知ってるかい?』
「は…はい。でも、一斉退去だとかで…」
『そうなんだよ。よく知ってたね。
私は、生まれも育ちもこの街で、
住んでる場所もこの近くだ』
おじいさんは掃除道具を置き
よっこらせと
近くにあったベンチに座った。
隣にどうぞと、
ジェスチャーをしてくれたので
少し離れて座った。
『近所だったからか、
ホームレスの中に友達もいたよ』
「へぇー」
『友達以外の人達もフレンドリーでね、
差し入れしては、よく一緒に飲んだものだ』
おじいさんは言葉を続ける。
『でも、それをよく思わない住民も沢山居てね、
いくら彼らが悪い奴らじゃなくても
住民はそうは思わないわけさ』
「まぁ、そんな…感じに思う人は…
一定数いる…とは思い…ます」
私はめちゃくちゃ言葉を選んだが、
それが正しいか分からなかった。
その様子を察したのか、
おじいさんはさっきのように
微笑んでくれた。
まるで気にしなくていいよと言ってくれてるみたいで、安心した。
『この場所の周りには、
子を持つ世帯も結構あったし、
時々、子ども達が遊びに来たり
していたんだ』
『広い公園は、いつのまにか窮屈になって、
子ども達は何故か遊べない。変な話しだろ?
だから、子ども達は
自由なホームレスの人らに憧れて、
そこに遊びに来てたと思うんだ憶測だけどね』
『そこでボードゲームを知った子が
、有名になった話しもあったなぁ』
話しをしているおじいさんは
懐かしさに目を細めている。
『大人が言っても聞かないものだから、
ある日誰かが怖い噂を流してね』
「あ!」
私の中でおじいさんの
話しがようやく合致した。
『そう、善悪おじさん。ね。
昔はもうちょっと違う名前だった気がするけどね。
色んな噂が混ざって、曲がって
今は善悪おじさんになってるみたいだね』
「そういう事だったんですか…」
…善悪おじさんは
結局の所いなかったのか。
『所で君は、何でその善悪おじさんに
会いたいと思ったんだい?』
「深い事情は言えないのですが、
だ…大学のレポートで人の善悪について
調べていたら、こんがらがっちゃって…」
裁判員裁判の事は言ってはいけないので、
嘘をついてしまった。
『それで、善悪おじさんに?』
「はい、何か教えて貰おうと思って…。
でも、噂は噂でしかなくて結局は居なかった…」
おじいさんは、
こんな私の話を、ちゃかす事なく
聞いてくれてるのに、
私は嘘をついてしまった。
心が痛い。
『それは困ったね』
「はい…困りました」
『ちなみに、その善悪おじさんの噂というのは?』
「私も偶然聞いた話なんですけど、
善悪おじさんに“私はどっち?”と聞くと、
聞いた人の善悪を教えてくれるそうです。
よく考えたらおかしいですよね、
その人の善悪を教えるって。
意味が分からない」
当時、噂話しを聞いてた子が
返した言葉を私も口にしていた。
『確かに意味が分からないね』
おじいさんは笑っていた。
「はは…レポートは振り出しに戻りそうです…」
これ以上ここに居ても
善悪おじさんは噂が歪曲したものだったし、
おじいさんの掃除の邪魔になるだけだ、帰ろう。
帰って、取りあえずカネコに
餌をあげなければ。
裁判員候補の事は明日考えよう。
そう思ってベンチから立ち上がろうとしたら、
『所で、君にとって私はどっちだい?』
「は?え?」
おじいさんの突然の問いに
動きが止まり、それから
あ!と思い
「…善?」と、答えてしまった。
『それは何でかな?』
「私が変な事言ってるのに、
ちゃかしたり否定しなかったし、
色々教えてくれたし…」
『はは、ありがとう。君には
私が善に見えるんだね』
おじいさんはとてもいい笑顔をみせた。
試しに私も聞いてみた
「おじいさんにとって、私はどっちですか?」
『悪かな!』
まさかの即答で悪びれる様子も無く、
答えるおじいさん。
え?私が悪?なんで?
レポートの事が嘘だってバレた?
過去の事もぐるぐるやってきて
心当たりを探る。
私が困惑しているのを見て、
おじいさんが申し訳なさそうに言った。
『ごめんね、そんなに深く気に留めないでほしい。何で悪に決めたかと言うと、顔でなんだ』
「顔ぉ?」
斜め上の言葉に
思わず不服そうな声を出してしまった。
『善悪でしか答えがないなら、
君は悪。それは、他の誰よりも
私の奥さんの方が、美しく可愛いからね』
おじいさんは、
さっきの思い出話をしてる時にみせた、
遠くを懐かしむような、そんな顔をして
目を細めた。
それから、パッと表情が戻り話しを続ける。
『それに、君とは今日初めて会った訳だし、
君の事は何も知らないからね。
今の所顔でしか…と。
そして、君はもしかしたら、
凶悪犯かもしれないし、
詐欺師かもしれないしね』
「え、そこまで考えてたんですか?」
『まぁ、半分は冗談な訳だけど、
善悪なんてそう簡単には分からないものだよ。
私だってこれだけ生きてるのに分からない。
簡単な善悪なら解るかもしれないが。
それも正解か怪しい。
だから答えを聞きに行くために、
毎日ここの掃除を頑張っているんだ』
「?」
『あぁ、すっかり長話になってしまったね。
私はそろそろ帰るとするよ、
今日はありがとう。久しぶりに楽しかったよ』
突然、話しをうちきられた様で
「こちらこそ、ありがとうございます」
そんなありきたりなお礼しか言えなかった。
おじいさんはニコリと笑うと、
掃除道具を持って帰っていった。
数日後、
私は裁判所に行き、
同じように裁判員候補に選ばれた
人達と一緒に、色々と説明を受け、
それから、この事件の裁判員に
選ばれるかどうかのクジで
見事に外れ、
私は、結局選ばれなかった。
裁判所からの帰りに
不思議なおじいさんと出会った
あの場所に行ってみた。
もし今日来たら、
多くは話せないけれど、
せめて、レポートの事は
嘘だったと謝りたい。
しかし…待ち人来ず。
私はしばらく、この無機質な風景を眺めていた。
この場所は、手入れは行き届いているけれど、
変わらず寂しい場所だと感じる。
どれくらい経ったか、
車が止まる音が聞こえ
私はハッとした。
車からは
見慣れない作業服を着た女性が
降り、掃除道具をもってこちらに
やってきた。
『あら、こんな場所に人がいるなんて珍しい』
“こんな場所”という単語に少し
ムッとしたけど
「こんにちは…」
今度は普通に挨拶ができた。
『こんにちは、お散歩か何か?』
「いえ…ちょっと」
おじいさんから感じた違和感がどうも離れない。
「あの!ここの場所の掃除って、
えーと、何だっけ…最後に清掃サービスって付く会社もしてたりしますか?」
おじいさんの会社の名は
難しい漢字だったからあの時は
読めなくてスルーしていた。
『んー、確か私の会社が、
ここの管理を任される前は、
名前の後にサービスって付いてた
会社の名前だったと思うけど、
もうずいぶんと前の話しよ?それに
その会社は倒産したんじゃなかったかしら』
「え?」
ずいぶんと“前”の話し?
それじゃ、あのおじいさんは?
誰?
『貴方が探している会社の事だったら、
私、そこの社長さんの事、知っているけど…』
「すみません、帰ります」
『え?ええ…気を付けてね』
話しを遮って私は早歩きで
その場を去った。
きっとあのおばさんは、
あの時出会った清掃のおじいさんの事を
色々と知っているかもしれない。
でも、それを聞いてしまうと
何かが消えてしまいそうで
聞きたくなかった。
私はおじいさんの存在を
箱にしまった。
これで、ずっと消えないはずだ。
家に着いたら、取り敢えずカネコに餌をあげて、
それから今日は疲れたから、早く寝よう。
そして、また何日かしたら
あの場所にいってみよう。
そうしたら今度こそ、
あの時嘘をついた事を謝るんだ。
いつかの夕方、
ポコポコと泡が立つ水槽に
一匹の金魚がいた。
金魚の目の先ではテレビが
つけっぱなしになっていて
その画面には
裁判所の門にずらりとならんだ
報道陣の目の前で
無罪と書いてある白い紙を宙に
かかげるスーツの男の姿があった。
だが、その金魚以外
テレビから流れる音も映像も
気に留める住民はいなかった。
fin,
#今回のお題は【善悪】でした。
●願い●
海岸近くの公園に私はいた。
そこは、思い出の公園だった。
高台にあるその公園からの景色は
まるで海の上。
ずっとずっと続く海と波の音。
日はもう沈もうとしている。
私は、握りしめくしゃくしゃになった、
一通の招待状に目をやる。
それは大好きな幼馴染みから送られたもの。
突然音信不通になったと思ったら…
そっか…うん。元気そうでよかった。
「私も元気ですよー」
と、強がってぽつりつぶやいてみる。
誰一人居ない公園。
日は沈みきって、少し寒い。
どこからかカチカチッと音がして
それを合図に公園の電灯がポッと辺りを照らす。
今夜は新月だからか、電灯がよりいっそう
明るくまぶしく感じる。
目の前に広がる海は薄暗いけれど、
まばたきを一回したら、私の見ている海だけは
私の瞳を通してとてもキラキラしてみえた。
私は、昔幼馴染みとお揃いで買った
大切なネックレスを外すと
その薄暗い海の方めがけて空に投げ捨てた。
今までそれを大切に身につけてたなんて
何だか笑っちゃうでしょ。
貴方はとっくに仕舞っていたんだろうな。
電灯の光がネックレスのチェーンに反射して
まるで流れ星のようだった。
私は何だかすっきりして、
さらにくしゃくしゃになった招待状を破り、
そこらへんにあったごみ箱に捨てる。
どうか、貴方が幸せになりますように。
ネックレスを投げ捨てた時あの光に願った。
私の気持ちは暗い海に捨てた。
公園の灯りと波の音が遠くなっていく。
明日は休み、ジュエリーショップに
ひやかしにでもいこうかしら。
fin,
#今回のお題は【流れ星に願いを】でした。