「あーあ、結局何もしないで夏休みも終わりかー」
最後に聞いたのは確かその一言だった気がする。
去年の夏、何もしないで夏が終わったと言ったあいつはあいつ自身も終わらせた。
「1回でいいから空とか飛んでみたいな」
「なんだよ急に、バカみてー」
あいつはこのクソ暑い大空を一人で飛んだ。
俺との記憶さえ、何も無かった夏休みと表現したあいつはあの時何を考えていたのか、今でもよく分からない。
「なぁ、今年の夏はさお前が満足するまで一緒に遊ぼう。俺じゃ物足りないなんて、言わせねぇからな。」
答えは、このクソ暑い大空にあると思う。
俺は高いところが怖いし、空なんて飛びたいと思ったことはないけれど。
「あーーーー!クソ野郎!!」
俺はまだ、お前としたいことがたくさんあるんだ。
風が靡くとお前が見えた。木陰に身を潜め、太陽の光を酷く嫌う俺をお前はなりふり構わず日の下へ連れ出していく。俺の腕を掴む細くてよわい手が、俺を必要だと言っているようで、自惚れた都合のいい妄想に心を病んだ。こんな毒が身体中へと流れているのだ。俺は、この味しか知らないのだ。
君の寂しげな瞳が僕に助けを求めている。
君の清らかな瞳に僕も胸を躍らせている。
君の広い瞳は僕以外にも向けられて、君の大きい瞳は誰の目にも止まる。
君は僕がいくら手を伸ばしたって掴んではくれない。
君は僕がいくら好きだと叫んだって応えてはくれない。
世界が終わるその日まで、僕は君以外を愛すことはできないだろう。
世界が終わるその日まで、君は僕自身を愛すことはできないだろう。
それでも。
あぁ、空恋。僕を連れて行って。
ただの一歩、されど一歩。
その一足分の距離がとても大切である。
それさえ踏めない人間がはるか遠くに行くことなど不可能。自分の足で踏みしめて、感覚を身につける。遠くへ行きたいと願うだけではなく。
18の夏。灼熱の太陽が煌めく外の景色を、クーラーの効いた教室から眺めていた。
教師の声は聞こえない。窓際の席。君の背中が見える。
夏祭りを知らせる風が教室内を騒がせて、私の心を熱くする。
授業終わりのチャイム、立ち上がった君に。
「夏祭り、一緒に行かない?」