3/20/2023, 2:13:27 PM
知らない人が私の手を取る。
暖かな温もりが実感を与え、やがてそれを介して人とのつながりを教えてくる。
あれ、この人、知ってる。
母だ。
彼女はおさげを揺らして、私の小さな手を包むように支えて、そこに飴玉を落とした。私の手をぎゅっと丸めて、その上から両手で押さえ込む。
「お兄ちゃんには内緒よ」
うん、と笑った。
私ではないけれど、私は笑った。
じわり、じわ、じゅわっ。
溢れたような音が胸から聞こえる。短い逢瀬が確かに私に愛を教えてくれた。
誰かの母から、誰かへの愛が、私にとっては眩くてたまらない。愛しい気持ちが誰かのものだろうと、私のものだろうと、変わりはない。
夢から醒めたらこの記憶も愛もなかったことになる。
なら一生醒めないままがいい。夢の中で死なないまま緩やかな情愛に溺れて生きていたい。
願って、願って、本物になる日が来ると信じて。
「起きろ」
静かな朝。布団の中の微睡。
叩き起こされたとしても、夢は続いていた。夢の中の夢は終わったけれど。
「私、仕事がありましたか」
「俺の朝食」
「ああ。当番でしたね」
彼は返事もせずに部屋を出て行った。存外優しいことを知ったので、私はそれが寝起きから身支度のための時間だと理解している。
「朝ご飯は白米と魚、それから……ええっと、みそ汁」
一緒に食べたら、なんだか家族みたいだ。同じ家の中にいるみんなって家族なんだろうか。
朧げな記憶を辿って飴玉を思い出す。
家族ってきっと美しくて、綺麗で、暖かくて、汚れのない情愛のことだ。まったく苦味のない、完全に透き通ってはないけれど、純粋で可愛い飴玉のような。そういう家族が良い。
なれたらいいな。みんなと、家族に。
そして、この夢の中の本物に。