ゆらゆら、目が覚めた。
ああ、お腹が空いたなぁ、
プクプク。
今は2060年。
僕は深海ザメ、年齢は130歳だ。
浅い海では珊瑚がほとんど白化して、周りのお魚や他の生き物がだいぶ減ったようだ。
彼らは僕たちの餌だったんだよね。
そういや、人間の世界はどうなってるかなぁ、プクプク。
気になるけど、最近は海洋環境調査員もめっきり見かけない。
もしかしたら10年ほど前に来たのが最後なのかな。
その時はその人たち、クリスマスなのに日本の気温が48℃って言ってた。
ドームシティがどうとか話していた。
よくわかんないけど、大丈夫なのかなぁ、プクプク。
「目が覚めると」
カレンちゃんへ
私はフリフリ村の牧場で山羊さんたちと毎日を楽しく過ごしてます。
ハイジみたいでしょ。
夜には童話作家のママがいろんなお話をしてくれるのを、いつも楽しみにしてるわ。
でも満月の夜になると、私はじっとしていられなくなるのよ。
吠えて走り出して、山羊さんの首にかぶりつきたくなるの。
この衝動をコントロールするのに、くるくる回ったり、飛んだり、跳ねたりと、一晩中踊りまくってます。
これって、私にとって満月の夜の当たり前の過ごし方なんです。まるでバレエのジゼルのよう。
そしたらママが、この私の姿を見て「ジゼルとハイジ」という変身譚のお話を作ってくれたの。
この素敵なお話が本になったのでカレンちゃんに送りますね。
フィユルより
「私の当たり前」
青灰色の薄暮に大通りの街灯がオレンジ色の明かりを滲ませる。
仕事帰りの男女のグループはリニューアルしたばかりの洒落た居酒屋に流れ込む。
ラタンライトで金色に輝くビールの泡に一日の達成感と疲労感が交じり合い、それは円やかに弾ける。
街の至る所の、ほんのりした明かりが人々の疲れた体を包み込んでくれる。
「街の明かり」
ベガとアルタイルの間、
赤経18h45mβにレイダックという惑星がある。
レイダック人は意識のみを飛ばし、よく宇宙旅行をする。
地球暦の七夕の夜に、レイダックの若者が地球に意識を飛ばした。
そして「織姫と牽牛と探偵の真夏の三角関係」という地球映画を観た。
これは、星と星の感情のすれ違いを描いた作品である。
織姫と牽牛の悲恋、周囲の齟齬、そしてやがて理解し合う姿に、そのレイダックの若者は感銘を受けた。
この新鮮な感覚は、意識のニューウェイブとしてじわじわと全レイダックに拡がり、レイダックにも七夕伝説が知られるようになった。
「七夕」
交換日記の思い出。
日々の出来事、好きな芸能人、創作、学校でのうわさ話、あの子の話、正直な思い、お天気の話、犬の話、いろんなことをノートに綴っていた。
毎日学校で会うのに、交換日記というのは秘密っぽくて特別な感覚があった。
懐かしい。
「友達の思い出」