『色とりどり』
眩しさに目を閉じる。
東京の街は、田舎育ちの私には強すぎる。光とか、色とか、エネルギーとか、人とか。そんな物が。
社会人になって、東京に出てきた。東京には、高校の修学旅行以来だ。最終面接すら、今どきはオンラインで済ませてしまうのだから。逆に言うと、そんな会社を選んでしまった。東京に出たくて。
別に田舎が嫌いな訳じゃない。でも、大学まで実家暮らしだったから、多分その反動。家族仲も良い。ホームシックが心配なくらい。
要するにただの憧れだ、と、自己分析する。
自己分析。小さく笑って、解放感を味わう。もう就活なんかしなくていいんだ。スーツケースのタイヤが、段差で弾んだ。
ネットで探した物件まであと15分。遠いと感じるけど、どうやら都会だとそれくらい歩くのは普通らしい。
光と排気ガスを含んだ空気を、めいっぱい吸い込む。私はここに染まっていく。
『君と一緒に』
「堕ちるなら一緒がいいな」
君が呟いたのを、覚えている。あれは、そう。バレンタインの日の放課後だった。
「どこに、」
と尋ねた私は、野暮だっただろうか。でもそう、分からないのだから仕方がない。頭に一つ浮かんだ“正解”は、私の望んだ結末じゃない。
「失恋のバケモノ、みたいな?」
私たちのチョコは、揃って突き返された。同じ人、同じ時間、どっちが選ばれても恨みっこなしって約束したチョコ。他校にカノジョが居ただなんて、私たちは滑稽だ。
「もっと良い表現無かった?」
笑うと、向こうも笑った。
「じゃあ何て言う?」
「んー……」
突然、でもないか。でも私に主導権が渡されるとは予測してなかった。言葉に詰まって、行き場を失ったチョコを開封する。
「何味?」
「ビター。そっちは?」
お互いに知っている。一緒に作ったんだから。でもこれは会話。もっと言うと、準備運動。
「抹茶」
「好きじゃない」
「私もビター好きじゃない」
と言う彼女に、ビターのチョコを差し出す。そして、抹茶のチョコを受け取った。私たちは甘いのが好き。苦みを好むのは、私たちの好きだった人。
「ねぇ、何て言う?」
流れた会話の続きだ。彼女はそういう所が抜け目無い。
「……幸せだと思う? 幸せになれる?」
私はまだ、名前を付けるのが怖かった。だから訊く。不確定な、未来の話。
「さぁ、堕ちてからのお楽しみ」
それもそうかとチョコを頬張った。
だから、そう。私たちは記念日を忘れない。
既読がつかないメッセージ。
ああ、止められなかった。
彼女はきっと今日も、零れんばかりの薬を飲んで眠ったのだろう。
繰り返されるその行為は、彼女の身体を傷付けるだけ。