── 今 ──
14年間くらい生きた頃、わたくしは恋をしました。
順調な15年弱のすえの、初恋でした。
今でも度々、某卒業ソングに言わせれば「あたたかな巣」であった中学校を思い出します。クラスメイトや先生と集まれば、何かしらの楽しいことが起こっていました。
3年生になってから、わたくしの隣では、いつも同じ一人が微笑んでいました。その方を、仮にMさんとしましょう。
Mさんとは、卒園してから中学3年で同じクラスになるまで、一度も会っていませんでした。あちらは覚えていてくれていたみたいですが、わたくしは、Mさんと幼稚園が一緒だったことなど殆ど忘れていたくらいです。
Mさんはよく、わたくしの話し相手になってくれていました。当時は、こちらに話しかけに来てくれているのだと信じていましたが、今考えてみると、わたくしが無意識に、Mさんが話してくれるよう仕向けていたのかもしれません。
無意識を意識してしまう程、好きでした。
そして幸か不幸か、わたくしは感情を心の内に押し込めることが不得意でした。そもそもその方法を知らなかった、という方が正しいでしょうか。わたくし自身が恋を自覚したときには、大体の同級生に広まっていました。というのも、大方の友人の言う恋した日と、わたくしが完全に初恋と認めた日には、少なく見積もっても半年の差があるのです。
それから12月の30日に交際を始めるまでのなんやかんやは、割愛するとして。
はじめから、期限の決まっていた恋愛でした。卒業式の日、3月15日までと。理由は進学する高校が違っていたから。そして何より、Mさんにはわたくしよりも好きな人がいたからです。
わたくしは表向きには、なにも複数人を好きになるのは悪いことではない、というスタンスでいました。当然心の中では、どうして一番好きな人の一番好きな人が、一番好きな人を一番好きでないのだろう、なんて複雑に考えていたわけですか。
今、Mさんとはちょっと仲の良い友達です。新たな恋愛を進んで応援できるくらいには、友達です。
わたくしも、高校生になってから素晴らしい恋人に出会いました。恋愛対象としてのMさんには、もう何の未練もないのです。むしろ、今の恋を手放さないことの方が大切でしょう。
しかしふとした瞬間。古い校舎と山の匂いがよみがえると、音楽室のピアノで毎週のように楽しんだ連弾の真似事や、仲の良い友人からの心地よい揶揄い、受験のための小論文のことなんかを、さらには家で電気毛布にくるまって繋いだ電話の声まで、思い出すのてず。
そしてその度に、頭の奥がフッと軽くなるような、目の表面がうっすら乾いてくるような、そんな感覚がしてくるのです。自分自身が、今、どこの今、を生きているのか分からなくなる感覚が。
ときどき、訳もなく、意味もなく、叫びたくなります。
終わらせないで──。
題:終わらせないで