静寂に包まれた部屋
仕事を終え、借りているアパートへ帰る
いつもの時間、いつもの道
違うのはただ1つ
ガチャッと玄関を開けるとタタタッと軽快な足音と一緒に愛してやまない笑顔が出迎えてくれる
「おかえりなさい!」
「ただいま」
俺の足に飛び込んでくる愛娘の頭を撫でていると後から乳児を抱いた妻が来た
「おかえりなさい」
「ただいま」
静寂に包まれていた部屋に家族がいるだけで明るく温かい部屋に変わる
別れ際に 通り雨
カフェデートを楽しみ、そろそろお会計をと話し出した頃
窓を勢いよく叩く音が聞こえた
「あ、雨だ」
「通り雨っぽいよ」
雨に気が付いた私の呟きに彼はスマホを見ながら答えてくれる
はい、と見せられたスマホの画面には15分ほどで雨が止むと表示されていた
「ありがとう」
「どういたしまして」
スマホを返し、彼の顔を見るとニコニコと嬉しそうだ
「嬉しそうだね」
「愛しい彼女と過ごせる時間が延びるので♪︎」
「!?
さ、左様ですか…」
彼の屈託ない言動にこっちが恥ずかしくなる
恥ずかしいけど、嫌な気持ちはしない
だって私も同じ気持ちだから
窓から見える景色 秋
朝、眩しさを感じて目が覚めた
眩しい原因は中途半端に開いたカーテンから差し込む光だった
いやいや起き上がり、カーテンを開けるとさば雲が見えた
「秋の雲だな」
誰に言うでもなく口をついて出た言葉
さば雲が見えると言うことは雨が近いのだろう
今日は一応 折りたたみ傘を鞄に入れようと心に決める
形の無いもの
「ねぇ、形の無いものってどんなものだと思う?」
放課後の教室で日誌を書いていると前の席に座った友達に聞かれた
「目に見えないものとも言い換えられると思うから、気持ちとか感情とか?」
うーん、と考えてから自分の意見を伝えると「そっかー」と彼女から返ってきた
「急にどうした?」
「何となく…かな?」
特に意味のある返答を期待した訳では無いが、聞いてみたら思った通り意味のある返答は貰えなかった
やっぱり彼女の思考回路は不思議だ
夜景
「あー、疲れた…」
ドカッとソファに座り、手足を投げ出すと大きくため息をつく
ここはセカンドハウスだ
セカンドハウスと言っても祖父母から譲り受けたこじんまりとはしているが立派な一軒家だ
当たり前だが普段生活している環境から離れる為、人の気配がほぼ無い
放心していると「ぐぅ…」となんとも情けない音が聞こえる
どんなに疲れていてもお腹は空くらしい
よっこいせと言いながらソファから立ち上がり、リビングテーブルに向かう
テーブルの上には無造作に置かれたエコバックから弁当が少し見えている
「買ってきて正解だったな…」
あまりの疲れ具合に途中のコンビニで買ってきたお弁当をバックから出し、キッチンに持っていく
電子レンジに入れてあたためを押し、その間に麦茶を用意する
リビングテーブルにつくと手直にあるリモコンでテレビを付ける
適当に付けた番組を流し見しながら弁当を食べ終え、使った食器を洗う
缶ビールとお弁当と一緒に買ったつまみを持って窓辺へ行く
窓を開け、窓枠に腰を掛けると月が綺麗に見える
缶ビールとつまみを開ける
いわゆる月見酒だ
「夜景もいいが、酒を飲むなら月見だな」
独り言ち、缶を煽る
これが俺の週末の楽しみであり、生きがいだ