彼はとても優しい。
いつか
「なんでそんなに優しくするの?」
と聞いたら笑って答えた。
「君の喜ぶ顔とか嬉しそうな顔が見たいし好きだから」
本当にそれだけだろうか?彼の笑顔の裏は読むことができない。人は自分に利益がある時だけ行動することは痛いほど知っていた。彼だって……。
「ほら。危ないからもっと寄って」
道の途中で腕を引かれて並んで歩く。彼はいつもこんなに優しい。
だから……これが「愛」だと勘違いする前に優しくしないで。
「これ見て」
彼女の手にはマーブルチョコの袋。僕が訝しげに見ると笑顔の彼女は袋を開ける。中には色とりどりのチョコの粒。
「なんか懐かしくない?」
「懐かしいね。昔は筒で売ってなかったっけ?」
「そうだねぇ……でも袋の方がたくさん食べられるよ」
僕は台所から皿を持ってきた。彼女がそこにチョコを入れる。カラフルなチョコの粒は見た目にも鮮やかだ。
「綺麗だねぇ……」
「うん』
僕らはしばしチョコの粒を見ていた。
──不意に彼女がチョコを一粒摘んで口に入れた。
「甘ーい」
そう笑う彼女の表情の方がチョコよりもカラフルだなと思った。
自分にとっての「楽園」とはどこにあるんだろう?
誰しも一度は考えるのではないだろうか?
そんな話をしたら彼は笑った。
「『青い鳥』の結末知ってる?あれと同じじゃない?」
「えっと……青い鳥はすぐそばにいたってやつだよね……?ってことは楽園もすぐそばにあるってこと?」
「うん。そんなもんじゃないかな」
そんなやり取りをしてまた思考に沈む。すぐそばにあるという「楽園」。そんなものならとっくに見つけててもいいはずではないだろうか?しかし「楽園」は見たことがない。彼の考え方は時々分からない。
「僕にとっての『楽園』は君がいるところだけど君は違う?」
あぁそうか。なんか納得した。
「楽園」は手を伸ばせばすぐそばにあったのだ。
「ううん。違わない」
「でしょ?」
そうして二人ここが「楽園」なんだなと笑い合った。