秘密の場所
「じゃあ、行ってきます」
「夜には帰ってくるのよ」
「うん」
やっと出られた。
オレは家には居たくない。なんだか窮屈だし、オレには合って無い気がする。
オレはどうすればいいんだろう。
秘密基地でも作る?いや…小学生じゃあないんだし
そうしてぶらぶら歩いていたら、オレは家の前にいた。
秘密基地なんて作らなくても、ここはもう秘密の場所みたいなもんだったのかも知れない。
母さんが作る肉じゃが、父さんと見る野球、その一つ一つがオレの家族だけが知ってる事だから。
「ただいま、オレの秘密基地」
風が運ぶもの
寒い。もう2月後半だというのに、とても寒い。
こんな寒い中、私達は卒業式練習する。
卒業式練習は体育館で行う。体育館はとても寒い。
体育館はまさに自然の冷蔵庫だ。
はぁあ、やる気出ないなあ…
「柔らかな日差しが、大地をつつみ!」
「新しい命を運んでくる、希望の春」
…まだまだ春じゃあないなあ
なんて思ってたよ、私。
「撮るよ!」
カシャ。
私は卒服に身を包み、笑顔で少し泣きそうな顔で写真を撮られた。
卒業式も終わり、学校の校庭を歩いていると、
桜が舞った。
「…桜…」
希望の春を、風が運んできてくれたのかもしれない。
「ありがとう、私達の小学校」
友達が呼ぶ。私は駆け出す。
また、風が運ぶもの。
約束
結婚しよう!
そうゆう約束する園児は何度か見た。
私は保育士をやっている。
そんな私も一度言われたことがある。
大人になったら結婚しようって。
あの時ああ言ったアイツ。
今、何してんのかなぁ…あ、そろそろ私帰っていいかな?いいよね?あがりだし。
「はぁー…」
あのあとまだ帰らないでーって園長に言われて
結局残業みたいな感じだったよ…
結婚とか、考える暇ないなぁ…
そろそろ、婚活しないとなのかなぁ
ピコン
通知?誰かなぁ
「ッえ!?」
私は走った。
今歩いてきた道を、歩きやすいように買ったスニーカーで。
「田中、、」
「や、久しぶり。同窓会ぶり?」
「何言いにきたのよ。また告白?」
「そーだよ」
コイツは、私の幼なじみで保育園の時から私の事が好きだったらしい。
私はタイプじゃあないけどねぇ
「好きです!!愛してます」
ドキっ
今、胸がときめいたような。
いやいや
気のせい…でしょ
だって私、タイプじゃないし
「返事はぁ?」
あーぁもぉ!
「いいよ」
「付き合ってあげる」
満月の下、私は初めて答えた。
好きだと。
ひらり
桜が舞った。
今日はお散歩日和の暖かい日。
お花見するのにはちょうどいい。
今日、僕もお花見に来た。
ひらり、桜が君の肩に乗って、
「ついてるよ」
僕はその桜をとった。
そんなことがあった。
去年までは。
去年まで一緒に来ていた彼女。
桜が舞って綺麗だねって言う君が可愛いかった。
出店でお団子を買って食べたの覚えてるかなぁ
来年も、再来年も、またその次も…
来ようねって約束した事。
覚えてる…?
『覚えてるよ』
「え?」
君がそこにいた気がした。
気のせい?
まあいいや。
来年も、再来年も、またその次も…
僕は、あの時の僕のまま、またここにくるから。
誰かしら?
「あなた…だれ?」
彼女が交通事故にあった。
記憶障害を負うことになった。
もちろん、俺との思い出も全て忘れてしまった。
「俺は、俺はあなたの彼氏だよ」
「彼氏、なの?」
「うん。いろんな所に行ったんだ」
「そうなんだ。例えば?」
「まって、今写真があるはず」
「わ、楽しそう…これ、私?」
「そうだよー」
俺は遊びに行った時の写真を沢山見せて、思い出も沢山話した。
「そうだったんだね…私、幸せだったんだ」
「幸せ…」
記憶があった時の彼女には、言われたことがなかった。
もしかして、記憶があったときからそう思っていたのかな。
「ねぇ、また、付き合おうよ」
「え」
やっぱりだめだよな…付き合ってたとしても初対面みたいなもんだし…
「付き合ってるんじゃ、ないの?」
「えッ」
初夏、俺たちはまた2人の思い出を作ることを病室の中誓うのだった。