「寒さが身に沁みて」
新潟市の中心部に 勤めることになって
マイカー通勤が 禁止になった
あれは30代のころ
電車とバスを乗り継いで出勤
夏は暑いし 冬はべらぼうに寒い
今まで車に助けられていたんだな…
夕方 吹雪の中 停留所で バスを待つ
わたしが何か悪いことしたか?
というくらい 地獄のように寒い
芯まで冷える とはこのことだ
その日 生まれて初めて ダウンを買った
かの子
「20歳」
わたしは事件に巻き込まれた
あの日から
わたしに隙があった
警戒心がまるでなかった
わたしは汚い
このことは
死ぬまで誰にも話さない
結婚なんて
相手の人が可哀想
ずっと ずっと
自分の未熟で他人を疑わない
頭のゆるいところを責めていた
ただ
私がわたしを責めているだけでは
ふしだらな欲を満たす
化け物はいなくならない
私がわたしを責めた22年
わたしと同じ目に遭った人たちが
被害を訴えて
金儲けのためだろうと
野次る人たちは
どれだけの時間そのことについて
考えたのだろう
「運が悪かったね」
では済まされない人権を
わたしたちは生まれたときから持っている
人権を保証するこの国で
隠れるように生き
わたしの個性を活かせない
いや
「運が悪かったね」
と自分に言っては駄目なのだ
運のせいにはしない
わたしは母の娘なのだから
かの子
「三日月」
深夜に家を抜け出して
化石の見つかる崖へ行った
14歳の頃のわたしは
山の麓に越してきてから
見るものすべて珍しく
好奇心旺盛で命知らずだった
星は隙間なく夜空に存在する
唯一
月の光に消された星
いいよ
わたしが後で
君たちの名前を調べるよ
月も嫌いではないが
わたしは弱いものを
見て見ぬふりはできない質
だから 苛められる
でも この自然の中で生きられるなら
友達なんていなくて平気
人間だけに執着して
強いものの顔色を伺い
騙されたり 裏切られたり
人間の汚い部分を見た日には
自然の中に入り込む
三日月の夜は
星の数が増えるから おすすめ
かの子
色とりどり
色とりどりの付箋を使い
手帳の隙間を埋める
前線から退いたわたしは
頭を下げることからも解放され
善意の残業の指示もない
付箋の色が増えるたび
馬鹿にしていた良寛さまに…
良寛さまの生き方に
共感してきた今日このごろ
かの子
雪
雪国育ちのわたしは
雪の日の無音の世界を知っている
陽の光も通さない厚い雲
風もなく 人影もない
雪は音を吸い込みながら
山の麓に降り積もる
積もった雪が 膝あたりなら
まだまだ降るね 1月だもん
かの子