〚雪を待つ〛
寒い冬の季節、電車に雪だるまが乗り込んできた
ところどころ溶けていて、かなり疲れているようだった
だが、雪だるまに席を譲る者は誰もいなかった
皆、席が濡れるのを恐れているのだろう
私は周りからの痛い視線を受けながらも勇気を振り絞り、雪だるまに席を譲った
雪だるまは「ありがとう」と私にお礼を言い、ドスンと席に座った
電車から降りる際も同じようにお礼を言われ、私は濡れた席を拭きながら「いいことしたな」と思った
そんな出来事があってから約1年が経つ
今年も雪が降ってきた
またあの雪だるまに会えるといいな
〚イルミネーション〛
今日は彼とイルミネーションを見に来た
だが彼はイルミネーションよりもどぎつい光を放っている
好きだからキラキラ輝いて見えるとかじゃなくて、物理的に光っている
周りから視線が集まる
「ねぇ、みんなに見られてるよ。
恥ずかしいから光るのやめて。」
私に注意された彼は言った
「だって君はイルミネーションばかり見て、僕のことは全然見てくれないじゃないか。だから今日はイルミネーションよりも目立つ恰好をしてきたんだよ。」
確かにイルミネーションより目立ってはいるが、眩しすぎて直視できない
〚愛を注いで〛
新婚旅行中、
彼のキャリーケースの中身を見て驚い た
なんと着替えやお金が全く入っておら ず、その代わりに大量の愛が入ってい たのだ
「君にたくさん愛を注ごうと思って」 バカすぎる彼に腹が立った私は、キャ リーケースを無造作につかみ、大量の 愛を頭からかぶった
すると私の体は愛で満たされ、怒りも 鎮まった
それどころか、彼をもっと好きになっ てしまった
〚心と心〛
ハチ公の銅像前で友人と待ち合わせ中
隣りに座っている老人と、ハチ公の会話が聞こえてくる
「おじいさんも誰かを待ってるの?」
「ここに座っていると、どこからともなく今は亡き妻が現れ、話しかけにきてくれるんじゃないかという気がしての。」
「そうなんだ。僕もずっとここで飼い主を待ち続けてるんだけど、全然現れないんだ。
おじいさんはどうして亡くなった人のことを待ってるの?」
「遠くにいても、心と心が繋がっていれば必ず会えるというものさ。私はそう信じておる。」
しばらく沈黙が続いたあと、ハチ公が一筋の涙を流した…ように見えた
〚何でもないフリ〛
刑務所生活6年目
居房の掃除中、壁のポスターを剥がすと、掘りかけの大きな穴があった
どうやら俺と同じ部屋に収容されている男が脱獄を試みているらしい
だが俺は知っている
この壁の先にあるのは、外ではなく監視室であることを
俺は男の脱獄を手伝うつもりはない
あと少しでシャバに出られるからだ
だが終身刑である男の境遇を思うと、お門違いな同情心が湧いてきた
俺はこの気持ちに逆らえず、刑務所を出る前日、男に何でもないフリを装いながら、刑務所マップと、穴を埋めるための(収益労働中にこっそり盗み出した)生コンクリートを渡してやった