〚手を繋いで〛
「手出して。」
君が突然、僕に言った
ドキドキしながら差し出した僕の手に、君は桜の花びらを置いた
手を繋ぐのかと思っていた僕は虚を突かれ、一瞬恥ずかしくなった
「はい。これ、綺麗でしょ。あげる。
じゃあ私これからデートだから、もう行かなくちゃ。また明日〜。」
無邪気な笑顔を見せたあと、君は颯爽と走り去った
しばらくその場に立ち尽くしていると、春風が吹いてきた
君にもらった桜の花びらが飛んでいく
僕の叶わぬ恋心と共に
〚ありがとう、ごめんね〛
ほとんど使われていない新品同様のありがとうが、使い古され年季の入ったごめんねに話しかけていた
「やっぱりありがとうよりもごめんねのほうが需要高いですよね…
僕もいつか必要とされる日がくるといいなー」
するとごめんねが言った
「ありがとうは人を幸せにする特別な言葉ですよ
私よりもあなたが必要とされる社会になることを心から望んでおります」
これからはありがとうもたくさん使うようにしようと思った
〚部屋の片隅で〛
うちで飼ってる2歳のヤンチャな猫が、窓の隙間から脱走した
しまったと思った
猫は一度外の空気を吸ってしまうと味をしめ、それ以降は何度も脱走しようとするからだ
「ヒャッホーイ!外だ外だ!草と土の香りが野生の本能をくすぐるぜ!」
猫はすっかりハイになり、庭中を駆け回っている
遠くに行かれたら困るので家族総出でなんとか捕獲した
その後、小さな猫一匹の度重なる脱走劇に私達家族は悩まされていた
しかし、そんな悩みはすぐに消え去った
ある日突然、猫が部屋の片隅から動かなくなったのだ
「どうしたの?」と聞くと、猫は怯えるような目をしながら言った
「僕、おじいちゃんに言われたんだ。『次外に出たら、金輪際ちゅ~るやらないぞ(☞゚∀゚)☞』って。だから僕もう絶対お外出ない!」
おじいちゃん、それは流石に怖がらせ過ぎだよ
〚逆さま〛
2つの砂時計が、体をくっつけ合い、話している
「僕と結婚しませんか?」
彼からのプロポーズに彼女は一呼吸置いてから答える
「…あなたの砂が落ち切るまで考えさせてください」
しばらく沈黙が続き、刻一刻と時が経つ
すると彼は砂が落ち切る直前、くるっと半回転し、逆さまになった
砂が振り出しに戻る
どうやら断られるのを恐れているようだ
意気地なしだなぁ
もっと自信持ちなよ
彼女は今、とても嬉しそうじゃないか
〚眠れないほど〛
ひどく考える夜
私は1人真っ暗な部屋で泣いていた
闇や孤独に呑まれそうで、誰でもいいから助けてほしいと心の底から思った
泣いている私を誰かに見つけてほしい
そして今まで抱えてきた悩みをすべて受け止めてほしい
それだったらどれだけ楽だろうか
でも悩みや気持ちは言わないと分からない
こっちが黙ってても誰かが助けに来てくれるなんて都合のいい話はない
だから人と話すのが苦手な私は、1人で抱え込むしかない
こんな孤独を感じているのは私だけなんじゃないか
今暗い部屋で1人泣いているのは私だけなんじゃないか
こんな悩みを抱えているのは私だけなんじゃないか
不安だけが募っていく
でも実際はそんなわけない
人間は誰しも孤独を抱えているものだし、悩みがない人なんていない
自分は一人ぼっちじゃないと気づくだけのことがどうしてできないのだろう