①
包みこまれたまま
気持ちよく眠りたい
猫のように丸まって
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②
しとしと シトシト
優しく暖かな雨に
そっと背中を押され
柔らかな葉を芽吹かせる
木々や花々の
生命の喜びが溢れる春の日
天気予報が外れた!と怒りながら
雨宿り場所まで駆けていく
浴衣姿の男女の背中
花火は中止になって見れなかったから
そんなの悔しいから来年も来ようと
約束を交わし合う
毛布にくるまって
活字の向こうの世界へ飛び込む
秋雨が窓を叩く音が
主人公の哀しみに、
共に浸るのを手伝ってくれた
年の瀬、生憎の雨でも
こたつの上のミカンをむき
猫のように丸まって寝れる
この楽しみ、この癒しは
何物にも代えがたい
雨音に包まれて
季節が巡った
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お題『雨音に包まれて』
①は、ただの己の心の声
②は、雨のある風景×春夏秋冬×喜怒哀楽
美しいと感じるものは沢山見てきた
輝きの眩しい石、朝露に濡れた道端の花
陽の落ちる寸前の空や、洗練された美術品
その他にも、沢山、たくさん…
けれど
背中まで長く伸びた艷やかな髪
透き通った白い肌
切れ長の目
姿勢
歩き方
髪を結い上げる手の
ひとつ、ひとつの動きまで
美しいと、思ったのは
まして、ヒトに対して感じたのは
貴方が初めてだった
お題『美しい』
職場から最寄りの駅まで
職場から最寄りの飲食店まで
一緒に歩くようになり
一緒に行動するようになって
その後は、必ずしも職場からの道ではなくなり
待ち合わせた先から
知ってる店、知らない店まで
地図を頼りに歩いた
家族になってからは
家からスーパー
家から駅
特別な場所ではない
日常的に使う道も、一緒に歩いたよね
沢山の道を貴方と歩いて
多分、忘れてしまった道も多いけれど
通れば、きっと、ほとんど思い出せると思うの
そんな記憶と一緒に
私は今後、一人の道を歩いていかないといけないの
お題『君と歩いた道』
言って欲しかった、キミに
言われたかった、ワタシ
けれど、言われなかった
キミは他の誰かに
その言葉を使ってしまったの?
ワタシの前から消えてしまった
ワタシは何処にも行けないまま
今日もココで
キミに言われるのを待ってるの
ずっと、ずっと、待ってるの
お題『さあ行こう』
「分かれよう」
私に「キレイだよ」「愛しているよ」と、過去に何度も言ってくれた彼の唇が。その同じ唇が、今はハッキリと、離別を告げる。
別に好きな人ができたから、と。
薄々、気づいてはいた。少し前から、きっと浮気されているな、という漠然とした確信があった。
こちらから指摘しなかったのは、私の中にも既に、彼への愛情がほとんど残っていなかったから。
「そう。わかったわ」
そう答え、足元に視線を落とせば、水たまりに映る空は先ほどまでの雨が嘘みたいな抜けるような青で。今の状況と相反しすぎていて、やけに印象に残った。
3年後
「僕と、付き合ってくれませんか?」
職場の後輩からの、突然の告白。
正直、嬉しい。でも…。
あの日の水たまりの青色が脳内に蘇る。
「…ごめんなさい」
自分でも驚くほど、弱々しい声が出た。頑張って相手の顔を見ると、苦しそうな、哀しそうな目をしていて。
「…理由を、聞いてもいいですか」
問われたけれど、今の気持ちを何と説明したら良いか、自分でも分からなかった。しかし、目の前のこの人には、嘘やごまかしはしたくないとも思った。
「…昔、付き合っていた人がいたの。1年くらいで別れちゃったんだけどね。…その人が、忘れられないとかではないの。お互いに早い段階で気持ちが冷めてしまってたのは、分かってた。ただ、最初はどんなに互いを好きだと思っていても、時間が経てばその気持ちも薄れて、消えてなくなることがあると、知ってしまったの」
「…」
「…誰かと付き合うと、また、その時の気持ちを味わってしまうんじゃないかと、繰り返してしまうだけなんじゃないかと思うと…」
「…怖い、ですか?」
「…そう、ね。怖いのかもしれない」
「ひとつ、質問いいですか?」
「?ええ、どうぞ?」
「僕のことが嫌いとか、そういうのはない、ですか?」
「貴方のことは嫌いじゃないわ。むしろ、好意を持って貰っていると分かって嬉しかった」
「じゃあ!…じゃあ、改めて言います。僕と付き合って下さい」
「…でも、」
「僕が、この先、貴方に対する気持ちを変わらず持てるかと言われれば、それは僕にも分かりません。でも、だからといって、今の自分の気持ちに蓋をしたまま、好意の気持ちがしぼんでいくのを待っているのは勿体ないと思うんです」
「…勿体ない?」
「そうです!勿体ないです。ただ静かに待つより、今の気持ちに正直に、素直にまっすぐ向き合いたいです。それは、自分自身の気持ちだけじゃなくて、貴方の気持ちにも、です」
「…」
「気持ちは、時間の経過や、環境の変化や、色々なことで変わると思います。その時々に思ったこと、感じたこと、僕に教えてくれませんか?僕は、今、自分の中の変化や感じたことを、貴方に聞いてもらいたいって思ってます」
そんな風に、考えたことはなかった。3年前の彼とは好き同士で側にいたけど、互いのやりたいことだけして、言いたいことを言い合うだけだった。今どんな風に思ったとか感じたとか、話をした記憶がない。元彼だけじゃなくて、私自身も、だいぶ自分勝手な行動をしていたのだと、やっと気づいた。そして、普段は仕事を教える立場の後輩に、逆に教えられてしまったことにも気づく。
「私も、まだまだ、ね」
「え?」
「ううん。何でもない。…○○君」
「はい!」
「私、仕事はある程度できる方だと思うけれど、人付き合いは…。今の私とのやり取りで少し分かったと思うけど、あまり得意ではないの」
「…はい」
「こんな私だけれど、もし良ければ、私の気持ちを聞く相手になってくれない?」
「…っ!それって」
「私も、自分の気持ちに少し素直になって向き合ってみたくなったわ。それに、○○君の気持ちや考えも、聞いてみたい」
「つまり、お付き合いしてもいいってことで、いいですか?」
相手の目が、みるみると輝くのが分かる。
恥ずかしいけれど、ちゃんと顔をみて、頷く。
「…やった。やった〜っ!!!」
勢いよく私に抱きつく後輩は、大型犬の突進に近いものがあり、面食らってしまう。
「○○君、ここ、そと…」
「嬉しい!嬉しすぎます!絶対に振られるだろうなって覚悟してきてたから。心臓もバクバクで。でも僕の中の気持ちが、もういっぱいいっぱいで、隠し通す自信がなくて。それに、他の誰かに先越されたらとか考えるとですね」
私の身体を抱きしめたまま、後輩の独白は続く。暫く止まりそうもない様子が微笑ましくなってしまい、ここが公園で人目に晒されているという状況すら、どうでも良くなってしまった。
ふと、視線を落とす。
水たまりに映る、綺麗な青。
あの日よりも、澄んだ青色に、少しだけ安堵する。
次から青色を見る時は、あの日じゃなくて、今日という日を思い出せそうで。
-一旦、終わり-
お題『水たまりに映る空』