#ミッドナイト
低い照明。
グラスの縁に指が触れる音。
カラン、と氷が揺れる。
店のドアベルが鳴り、外の冷たい空気がほんの一瞬流れ込む。
入ってきた女性は、手馴れた様子でカウンターのパイプ椅子に座り、マティーニを頼んだ。
生意気なビッチ。
店に人気がなくなり、バーテンと俺と女性だけになった。
さっきの女性が席を立ったと思えば、隣に来て、
少し遅れて声を落とした。
「一杯、どう?」
視線は合わない。
距離は、近い。
よく見ると、
唇は椿のようにほんのりピンクで上品だ。
あ、返事をするのが遅れてしまった。
グラスを回す指先に、妙に意識が向く。
グラスを煽って、息をつくと
彼女はそれ以上何も言わなかった。
ただ、静かな店内で氷の音が時折響いた。
ぶっきらぼうなバーテンの口角が少し上がった気がした。
だって今夜はミッドナイト。
# 雪下生
朝、いつも置いてあったマグカップが冷えていた。
隙間風がヒューヒュー吹くこの部屋の窓辺に
白い花が蕾になって伏せていた。
何度擦っても冷たい指先。
ひとつ足りない椅子。
読みかけの新聞。
冷えた部屋を暖めるように、
窓辺に朝日が差し込んだ。
水仙が凛と咲き、
温もりの失せたあなたの指先を握った。
お題 : 凍える指先
#寂しくて
夜のコンビニ、無人の店内。
棚の間を歩く。程よく暖かい缶スープを手に取った。
それでもやっぱり、心は寂しくて。
#キンモクセイ
誰かと笑って通った通学路も、
今はイヤホンで塞いで歩く。
香りがしたら季節の変わり目。
ただそれだけのこと。
#君が紡ぐ歌
昔、先輩が曲を作ってくれた。歌詞はない。クラシックでもポップスでもない、和音が重なった、雨上がりの虹みたいな感じの。
今思えばすごいことだと思う。あの歳で、わずか15歳で作曲だなんて。
私は現在その歳を上回っているわけだけど、それでも作曲なんてできやしない。
あの先輩は、どこで何をしてるんだろう…
今もどこかで作曲してるのかな?その曲が私に向けられた曲だったらなんて馬鹿げたこと考えたりして。
え?まさか恋してる…?そうかもね。
でも、あの曲が、先輩の作った最初の曲というだけで私は満足。