約束だよ
ご飯を食べて、食器をシンクに運ぶ。めんどくさいなぁと思いつつ、蒸し暑くなってきたから放置したら地獄を見ることになるぞと自分に言い聞かせて、さっきやっとお気に入りのビーズクッションから立ち上がった。20歳ひとり暮らし。だから、洗い物はそれほど多くはない。手が荒れがちだからゴム手袋をはめて、水を出す。お茶碗を手に取って洗っていると、スマートフォンの通知が鳴った。スマートフォンはズボンのポケットに入れてある。部屋着にしているもうびろんびろんのポケット。メッセージ音なら後回しでもいいけれど、ててんてててん。ててんてててん。電話の音だ。誰だろう、こんな時間に。時刻は23時だ。うっかり彼氏?とか思うけどこの20年誰かと恋愛関係に発展したこともない。家族か、友達か…。でもこんな時間にかけてくることなんて滅多にない。よっぽどのことだ。と思うのと同時に慌てて手袋を外してスマートフォンを手を取り、通話ボタンを押す。
画面を見て、スマートフォンを落としてしまった。
ひ、。画面に女が写っていた。誰?
画面の左側だ、落ち着いて、これは自分だ、と思い直す。
しかし、
画面の女は言った。「約束だよ」と。
私は思った。「は?」と。
傘の中の秘密
買い物を終えた私は、いつも通りスーパーを出ると、雨に降られた。ざあざあ。ざあざあ。ああ、雨だ。傘は持っていない。走ればいいかな、とも思ったけれどすぐにああ若い時の感覚ではだめだ、と思い直す。最近は何もない平坦な道でも転んでしまう。あれは痛かったとまだ治らない膝の傷を見て思い出した。こんな雨の中、濡れている道ではもっと転んでしまうような気がする。
仕方ない、待つことにしよう。夕立だし、今までの経験上すぐに止むはず。肩にかかったエコバッグが落ちてきてなんとなくだらけた気持ちになる。ざあざあ。ざあざあ。エコバッグの中身はハンバーグの材料。明日も買い物にきっと行くし、重いから今日の夕飯分しか買わなかった。少し多めに作って、残りは明日のお昼ご飯にしよう。ハンバーグは旦那の大好物で、ケチャップとソースを混ぜたオリジナルソースをかけて食べるのが好き。そんな話を聞いたのは、学生時代。そういえば結婚して何年だろう。もう会話も少ない。慣れのようなものがあって、喋らなくてもと感じる。子どもはいない。ハンバーグが好きなんて、子どもみたいなものだけれど。10分ほど待っただろうか。
夕方、5時のチャイムが聞こえてくる。
学校帰りに遊んだのだろうか、大きなランドセルを背負った子ども達が走ってくる。可愛らしい傘がくるくると回る。ぴたぴた。ぴたぴた。子ども達はまだ遊び足りないのか、ひとりが突然、あーした天気になぁれ!と長靴を投げた。周りの子たちも注目した。小さな長靴はぴたっと底を地面にくっつけて立った。私が、あ、晴れ…と思った瞬間に、晴れだ!と子ども達は嬉しそうに叫んだ。片方靴下が濡れてしまっている。
私にもあんな頃があったんだ。学生時代2人でいつも一緒に帰っていた。2つの傘を並べて。いつから雨を嫌いになったんだろう。いつから旦那に向き合っているふりをしていたのだろう。いつから楽しみを見つけることをやめてしまったのだろう。
しとしと。しとしと。肩から落ちたエコバッグをきっちり持ち、優しい雨を浴びる。少し走ってみる。思ったより、大丈夫。旦那が帰ってきたら聞いてみよう。明日、食べたいものはある?あなたの大好物は今も変わらないのって。明日は遠くのスーパーに、いいえ大きなショッピングセンターに行ってみよう。そこで、素敵な傘をふたつ、買おう。その傘の中にはきっと、私達の未来がある。
2025.04.30お題:好きになれない、嫌いになれない
好きになれない、嫌い気なれない。気持ち悪い。
物語の始まり
〝 物語のはじまりには 丁度いい季節になったろう?
まるで全てが変わるように 〃
イヤフォンから音を感じながら今日も歩く。
私の光。神様の、歌。
自然と足取りが軽くなる。
ひそかな想い
ねぇくまくん。今日は釣りをして遊ぼうよ。
うん!しようしよう。
ぱしゃぱしゃ。じーー。
お魚釣れるかな。
本当は毎日くまくんのことばっかり考えてるの。
ばしゃばしゃ!ひっかかった!
わぁ大きなお魚!!
くまちゃん、一緒に食べよう。
うん!いただきます。
ごちそうさま。美味しかったね。
ずっとこうやって、遊んでいようね。