#窓から見える景色
風が強く、半分欠けた月が妙にギラギラ明るい夜。
窓を開けると冷えた空気が吹き込み、静まり返った住宅地の庭木と電線が狂ったように揺れている。
遠くに救急車のサイレンの音、どこかで黒猫の鳴き声、夜空に浮かぶのは異星人の船、通りを走り去ったのはナイフを持った殺人鬼。
…急いで鎧戸を閉めた。
怪奇短編集をパタンと閉じて、テーブルライトをつけたまま、今夜はもう眠ってしまいましょう。
#形の無いもの
幼い子供が、抱いてもらえると信じきって両手を伸ばす。
体の不自由な老犬が、撫でてもらえると信じきって、こちらを見上げる。
小さい弱い存在が、愛情という形の無いものだけを頼りに、絶対的強者の私に疑いもせず全身を預けてくる。
ぎゅうっと抱きしめるしかない。
#声が聞こえる
母が若い頃の話だ。
携帯電話なんてまだない時代、友達と家の電話でお喋りをしていて、話題がお互いの恋人のことになった。
実はね…と、友人が彼氏と関係の深まったことを打ち明け、え~っとかきゃ~とか盛り上がっていると、突然受話器の中から野太い男の声がして
「俺も仲間に入れてくれよ」
と言った。
母と友人は凍りつき、すぐに電話を切ったそうだ。
昔のことだから混線があったのか、人為的な悪戯か、それとも何か霊的なものか、理由は分からない。
何にしても怖すぎる実話である。
#秋恋
なにとなく君に待たるるここちして
出でし花野の夕月夜かな
(何となくあなたが待っているような気がして、月のとても綺麗な夕暮れに、花の咲く野に出てみたの)
秋の恋なら与謝野晶子のこの短歌が浮かびます。
好きな人で頭がいっぱいで、じっとしていられない感じ。
会いたくて長い秋の夜。
#時間よ止まれ
止まれというか…いらない時間を溜めておければ良いなと思う。
あるバイトをしていた時、お客さんが全然来ず、ただただボーッと時間の経つのを待っていて、一緒にいた仲間と時計ばかり見ながらそんな話をしていた。
まだ何時間もあるよ、この時間を貯金箱か何かに蓄えておいて、好きな時に出して使えたらいいね…。
今でも退屈な待ち時間があると、その会話を思い出す。
この時間を取っておいて、眠たい朝に使えたら良いなぁ…とか。