#貝殻
夕暮れの砂浜で、夏の落とし物を拾って歩く人がいる。
空きカンやペットボトルのゴミの他に、鈍く光る不思議な殻。
これは何ですか?と聞くと、ああこれはね…
ピンクのは恋殻
虹色のは夢殻
角のあるのは青殻
すべすべ丸いのは涙殻
「夏が終わるから、みんな諦めて捨てちゃったんだね」
「でもまだこんなに綺麗なのに」
「だから、磨いてまた空に返すんだよ」
リサイクルさ…とその人は笑う。
そうか、これはもともと星だったのだな。
#きらめき
この夏はどこにも行かない。
何となくそう決めて、お出かけらしいお出かけは一度もせず、友人にも会わず、エアコンの部屋で本を読んで、断捨離をして、歯医者に通って、近所の美容室で髪を切って、ゆるゆるパンツで過ごした。
意外と少しも退屈じゃなかった。
コップの中のサイダーみたいに、狭い日常にもきらめきや賑やかな泡があるのだ。
でもそろそろ良いでしょ…と9月の風が、私の袖を引っ張っている。
#些細なことでも
些細なミスが気になって、昨日あんまり眠れなかった。
どうやら杞憂だったけど、頭ぼんやり。
痛くない大きな注射器で、このおでこの眠気をチューッっと吸い上げて欲しい。
#心の灯火
外面に心底疲れた帰り道、急にこのまま実家に帰ろうと思いついた。
思いついたとたん、胸にポッと何かが灯る。
私が古い私に戻れる場所。
大丈夫、明日は休みだし、生ゴミは今朝出してきた。
乗り換え駅で乗り換えて。
私を見て全身で喜ぶ老犬の姿が目に浮かぶ。
#開けないLINE
思いがけない人からの嬉しいLINEは、もったいなくてすぐ開けられない。
ゆっくり素敵な返事が書きたい。
気が利いててさりげなくて、また返信したくなるような。
用事を済ませて部屋のドアを閉めて、宝物を開けるみたいにポンッと開く。
たくさん文字が並んでいて、わくわくする。