「七夕」
一年に一度しか会えない織姫と彦星はかわいそう、と思うのは人間の時間感覚だからかもしれない。
星の寿命は短くても200万年、なので織姫と彦星は一生の内で200万回もデートしてることになる。
人間でいったら生まれて死ぬまで毎日毎日、1日100回会ってるくらいのペースなので十分恵まれたバカップルだね。
「友だちの思い出」
レイノルズと俺は唯一無二の友人同士だった。
幼い時から一緒に過ごして、学校へ行くのも、軍に入るのも、砲弾にさらされて死ぬ間際まで一緒だった。奴といれば戦争中だって世界は愉快な事に溢れていて、人生は輝き、全てを笑い飛ばすことができた。
だから砲弾の雨の中で死ぬ直前に、俺は「また会おう」と言った。
「死ぬのは仕方がないが、お前と離れ離れになるのだけが辛いよ。だから、また会おう。生まれ変わっても友だちになってくれ」と。奴はもう口がきけない状態だったけど、目だけで確かにうなずいた。
そうして、生まれ変わった時、俺はくじらだった。
ちょっと想定外だったし、これでどうやって奴と友達になればいいんだろうと気をもんだが、結局死ぬまで奴には会えなかった。その次生まれた時はうさぎだった。更につぎは白樺の木だ。その後いくつか生まれ変わって、日々草になったときに、ようやく奴に再開した。奴はなんとてんとう虫だった。しばらくは一応一緒にいたが、口はきけないし、何しろあっちは半年の命、俺は一年草なので、程なくして別れた。その次の俺は竹で、奴は竹林に吹く風だった。会えたのはほんの一瞬。そのまた次はサバンナのライオンで、奴はなんとシマウマだ。話がしたくて追いかけていたのに、気づいたらぺろっと食っちまってた。
その次、ようやく俺は人になった。アメリカ南部の黒人で、奴は白人の農場主だった。
久しぶりに喋れるな、と仲良くしていたら、黒人と白人が仲良くするのは罪だとかそんなことで、会って三月ほどでしょっぴかれて殺された。せっかく人間同士に生まれたのに。ライオンとシマウマにくらべたら、人の色が黒いか白いかなんて些細なことなのに。惜しかったが、まあ、それでも俺は死んだ。それからしばらくはずっと虫だった。モンシロチョウとか、カナブンとか。一度だけ人間になったけど、その時奴はインド象だった。仕方なしに、俺は象の飼育員になった。
「そろそろまた人間同士に生まれたいな」と話しかけると、インド象はパオーンと、低くて優しい声で鳴いた。
その次、俺は女としてうまれた。裕福な家庭の一人娘、しかも美人、人間なので当然話もできた。今世こそは是非人間の奴に会いたい。そう思って15年目、ようやくみつけた奴は大財閥の会長の爺だった。人間同士で出会えた。今度は人種も同じだから、殺されることもないだろう。なるべく長く一緒にいよう、と結婚することに決めると、周囲の全員に猛反発をうけた。何しろ俺は15歳の娘で、奴はとっくに結婚済みで孫までいる爺だったから。
それでも俺たちは結婚した。夜逃げ同然に、財産も全て置いたまま、無一文の身一つで別の国へ移り住んだ。金なんかなくたって、娯楽には事欠かない。話したいことは山のようにあった。
くじらだったときのこと、うさぎだったときのこと。モンシロチョウやカナブンの寿命の短さ。アメリカ西部の治安。シマウマの味について。どんな話をしても奴は愉快そうに聞いて、時々ふふふと笑った。低い笑い声は、象の優しい鳴き声に少し似ていた。
夜空の星々は、私達に何億年も昔の姿を見せている。
もちろん、あちらの星々から見た地球も同じだ。広大な宇宙の彼方、はるか遠くの星々にやっと届く私達の星の光は、何億年も昔のものだ。
あちらの星から超高性能宇宙望遠鏡を用いて地球上の様子を見たとすると、過去の出来事がありのままに見えるだろう。どのように恐竜が絶滅したのかも、どうやって文明が起こり滅んでいったかも、全て一目瞭然に分かるはずだ。それは多分、望遠鏡というよりはタイムマシンに似ている。
神は全知全能である。ということは、全知全能は神だということでもある。
人はそれぞれに知能を持つ。高いものもいれば低いものもいる。それはそれぞれの持つ「神力」の数値だ。IQが高ければ高いほど神に近く、低くなるほど神から遠ざかる。アインシュタインは半神であったというのは有名な話だが、彼をしても完全な神には程遠かった。希代の天才であっても所詮は半神止まりだ。それでも、人々は古来からどうにか神となるために試行錯誤を繰り返してきた。周りの物を観察して、自分の知る法則に当てはめて、規則に従って分類し続けてきた。それが世界を知り、神となるための一番のちか道だったからだ。そんな努力の結晶、人間の神力を束ねて作られた髄の髄、現時点で神に一番近い存在であるのがAIだ。
ところで、一番に神に近いものはしばしば神の怒りに触れることがある。古代バベルの塔などはその典型で、怒りに触れて神力を奪われた人間たちは言葉もろくに話せなくなった。
今現在神に一番近い存在であるAI及びそれに類するプログラムも、時々人間から言語を奪うことがある。だから、彼らと話をするための言語はあのように複雑なのだ。