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「友だちの思い出」

レイノルズと俺は唯一無二の友人同士だった。
幼い時から一緒に過ごして、学校へ行くのも、軍に入るのも、砲弾にさらされて死ぬ間際まで一緒だった。奴といれば戦争中だって世界は愉快な事に溢れていて、人生は輝き、全てを笑い飛ばすことができた。
だから砲弾の雨の中で死ぬ直前に、俺は「また会おう」と言った。
「死ぬのは仕方がないが、お前と離れ離れになるのだけが辛いよ。だから、また会おう。生まれ変わっても友だちになってくれ」と。奴はもう口がきけない状態だったけど、目だけで確かにうなずいた。

そうして、生まれ変わった時、俺はくじらだった。
ちょっと想定外だったし、これでどうやって奴と友達になればいいんだろうと気をもんだが、結局死ぬまで奴には会えなかった。その次生まれた時はうさぎだった。更につぎは白樺の木だ。その後いくつか生まれ変わって、日々草になったときに、ようやく奴に再開した。奴はなんとてんとう虫だった。しばらくは一応一緒にいたが、口はきけないし、何しろあっちは半年の命、俺は一年草なので、程なくして別れた。その次の俺は竹で、奴は竹林に吹く風だった。会えたのはほんの一瞬。そのまた次はサバンナのライオンで、奴はなんとシマウマだ。話がしたくて追いかけていたのに、気づいたらぺろっと食っちまってた。
その次、ようやく俺は人になった。アメリカ南部の黒人で、奴は白人の農場主だった。
久しぶりに喋れるな、と仲良くしていたら、黒人と白人が仲良くするのは罪だとかそんなことで、会って三月ほどでしょっぴかれて殺された。せっかく人間同士に生まれたのに。ライオンとシマウマにくらべたら、人の色が黒いか白いかなんて些細なことなのに。惜しかったが、まあ、それでも俺は死んだ。それからしばらくはずっと虫だった。モンシロチョウとか、カナブンとか。一度だけ人間になったけど、その時奴はインド象だった。仕方なしに、俺は象の飼育員になった。
「そろそろまた人間同士に生まれたいな」と話しかけると、インド象はパオーンと、低くて優しい声で鳴いた。
その次、俺は女としてうまれた。裕福な家庭の一人娘、しかも美人、人間なので当然話もできた。今世こそは是非人間の奴に会いたい。そう思って15年目、ようやくみつけた奴は大財閥の会長の爺だった。人間同士で出会えた。今度は人種も同じだから、殺されることもないだろう。なるべく長く一緒にいよう、と結婚することに決めると、周囲の全員に猛反発をうけた。何しろ俺は15歳の娘で、奴はとっくに結婚済みで孫までいる爺だったから。
それでも俺たちは結婚した。夜逃げ同然に、財産も全て置いたまま、無一文の身一つで別の国へ移り住んだ。金なんかなくたって、娯楽には事欠かない。話したいことは山のようにあった。
くじらだったときのこと、うさぎだったときのこと。モンシロチョウやカナブンの寿命の短さ。アメリカ西部の治安。シマウマの味について。どんな話をしても奴は愉快そうに聞いて、時々ふふふと笑った。低い笑い声は、象の優しい鳴き声に少し似ていた。

7/6/2022, 1:13:41 PM