ひなまつり
子供部屋おばさんのもとにも、ひなまつりはやってくる。お母さんがスーパーで出来合いのちらし寿司や桜餅を買ってきてくれた。
30代独身実家暮らしのひなまつり。
たった1つの希望
お母さんが死んだら死のう。
お母さんが死んだら生きている意味はない。
お母さんを悲しませないために惰性で生きてる。
お母さんが死んだら死ぬ。
それだけがわたしのたった1つの希望。
欲望
欲望をノンアルコールビールで流し込む日々だ。
体重計を見ると、久し振りに見る数字だった。喜びに胸が打ち震える。
酒を飲みすぎると太る。そんな当たり前の、分かり切った事実。それにすら向き合えないほどストレスへの対処が難しかった。
新しくできた恋人が小柄で細身だから、一緒に並ぶのが恥ずかしい。そう思ったらやる気になれた。
ゆるいダイエット。禁酒と毎日ですらないフラフープ。それでも少しずつ体重は減っていった。
次第に飲酒欲求はわかなくなってきた。
大好きだった元彼と付き合っていたとき、私は痛飲と過食を繰り返していた。別れなきゃよかったと何度も何度も泣くほど大好きな人だった。
でも、きっとこれでよかったのだ。たぶん、禁酒できているうちは。
列車に乗って
「いつもマスクつけてる人。あの人友達居るの。なんかいなそうじゃない? 呪いとか唱えてそうじゃない?」
電車の床を見つめる私にも、それが私のことだということくらい分かった。
2009年の冬。このときは常にマスクをつけている人が珍しかった。
ありとあらゆる恐怖心や不安感を網羅した私にとって、電車通学は苦痛でしかなかった。人の目。挨拶するか微妙な間柄の人や、なんとなく毎日見掛ける人たちの目。
私はもうすぐ、高校を卒業する。
この田舎のちいさな列車で後ろ指をさされることからも卒業する。
またここに戻ってくることになって、もっと苦しい思いをすることになることは、このときはまだ知らない。
毎日自家用車に乗るようになることもまだ知らない。