百木

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列車に乗って

「いつもマスクつけてる人。あの人友達居るの。なんかいなそうじゃない? 呪いとか唱えてそうじゃない?」
 電車の床を見つめる私にも、それが私のことだということくらい分かった。
 2009年の冬。このときは常にマスクをつけている人が珍しかった。
 ありとあらゆる恐怖心や不安感を網羅した私にとって、電車通学は苦痛でしかなかった。人の目。挨拶するか微妙な間柄の人や、なんとなく毎日見掛ける人たちの目。
 私はもうすぐ、高校を卒業する。
 この田舎のちいさな列車で後ろ指をさされることからも卒業する。
 またここに戻ってくることになって、もっと苦しい思いをすることになることは、このときはまだ知らない。
 毎日自家用車に乗るようになることもまだ知らない。

3/1/2024, 5:14:00 AM